プロットの作り方:私だけのヒーロー

葛西 秋

🐯その4

寅衛門「『たしだけのヒーロー』か。エッセイ風味でお茶を濁そうとする作者を封じに来たな」

寅吉「しかに、振り落としに来ていますなあ」

寅衛門「かしリワード狙いの作者は諦めない」

寅吉「としてもですよ、あまりに見苦しいものはやはり止めましょうよ」

寅衛門「どなあ、どんなのがいいんだ」

寅吉「み会で披露できるような小ネタでいいんですよ」

寅衛門「屓客の接待にも使えるような、って、いったいKACは何のために開催されているのか」

寅吉「コストで、カクヨムコン終わった後の抜け殻作者達をカクヨムに繋ぎとめておくための対策でしょうなあ」


寅衛門「……」

寅吉「……」

寅衛門「縦読み、完成したのか?」

寅吉「スミマセン」

寅衛門「絶対あそこ、ローコストはミスだよな」

寅吉「……スミマセン」


寅衛門「じゃあ『私だけのヒーロー』のプロットを作るか」

寅吉「あ、そういう感じでいきますか」

寅衛門「まず『私だけの』の解釈とテンプレ化だな」

寅吉「日本語は主語でモヤッと性別が決められてしまうところが足枷ですよね」

寅衛門「『俺だけの』『僕だけの』としないあたり、両性を意識したお題であると考える」

寅吉「……女性、熟女主人公希望!」

寅衛門「ま~た濃いのを寄こしたな。じゃあ、主人公は熟女で」

寅吉「娘は私立の名門女子高生、息子は幼稚園からの一貫校の中学生、夫は会社で中間管理職に無事に出世していて特に何不自由のない暮らしを送る田園調布の主婦、莉莎子。ママ友とのランチを終えて家に帰るふとした時、どこか物足りなさを感じる時間が増えてきた……」

寅衛門「待て。お前のお気に入りロマ〇ポルノの前振りじゃないのか、それ」

寅吉「こっからです。こっからお題に」

寅衛門「むう」

寅吉「殿、ファイト!」


寅衛門「じゃあ『ヒーロー』の設定か。この場合、莉莎子がヒーローと感じる動機が必要で、その動機こそがこのお題の核心部分だな」

寅吉「そこはやっぱり宅配のアニキか、個人宅への集配をするクリーニングの兄さんでしょう! もがっ!」

寅衛門「ロ〇ンポルノから離れろ……!」

寅吉「口に、もがっもがっ、ティッシュペーパー詰めないでくださいよう、もがっ、ペッ」

寅衛門「ヒーローは若い女性にする」

寅吉「ええ~。……ん? それはそれでレズビ、もがっ!」


寅衛門「ここで『ヒーロー』とは非日常の存在という意味を含むことに留意しよう」

寅吉「ふう、戦隊モノはいつだって画面の中にヒーローがいますが、このお題の場合は日常の中のある切り取られた瞬間に『ヒーロー』というべき言動をする人物が現れる、そういった内容を含みますね」

寅衛門「主人公が莉莎子、『ヒーロー』となるのが若い女性。ふむ、ママ友ランチしている店のアルバイト店員なんんかどうだ」

寅吉「あの条件下で最もミニマムな舞台を設定しましたね」

寅衛門「いつもは背景のような存在の店員が、ふとしたことで莉莎子に『ヒーロー』を感じさせる言動を取る」

寅吉「ふとしたこと、が莉莎子に生じるのか、ママ友に生じるのか、関係のない第三者に生じるのか。プロットの分岐点ですな」

寅衛門「ママ友の設定も関係のない第三者もキャラ設定がめんどくさいから、莉莎子自身に生じることにするか」

寅吉「ミニマムに徹するプロットですな」


寅衛門「ええっと、それでお前の考えた莉莎子のキャラ設定から、その出来事をどういったものにするのか導き出すのだが……」

寅吉「ふむふむ」

寅衛門「……物足りなさ、若い男」

寅吉「ふむふむ!」

寅衛門「ママ友と待ち合わせたカフェに早めについてしまった莉莎子。オープンテラスの席で待っていると男に話しかけられる」

寅吉「いいぞ!」

寅衛門「飲んでいる飲み物は、そうだな、高校生の娘に聞いた今、流行りのものにするか。いつもよりすこし浮き立った気分にあるというところをそのあたりで表現しよう」

寅吉「いやあ、ワシも声をかけたくなっちゃう!」

寅衛門「……その男は自宅にもよく来るクリーニング屋の配達員だった」

寅吉「(正座)」

寅衛門「いつもなら適当にあしらうところ、何故かその日はうまく追い払えなかった莉莎子だが、席に着いた男はしばらくの雑談のあと、タブレット端末を取り出す」

寅吉「ん?」

寅衛門「『で、僕はこれを知って最近クリーニングの仕事を辞めたんです。これ、すごいんですよ、やれば必ずもうかるプログラムがこのUSBメモリに入っているんです。たったの30万円なんですけど!』」

寅吉「Oh……」


寅衛門「席を立つタイミングに迷う莉莎子に、アルバイト店員が声をかけてきた。『お連れ様が中の席でお待ちです』。莉莎子はほっとして店員に案内されるまま店内の席に移動するが、まだママ友は来ていなかった」

寅吉「ああ、そこで店員の機転に感謝する流れですか」


寅衛門「……」

寅吉「……」

寅衛門「……弱いなあ」

寅吉「弱いですねえ。ちょっと『ヒーロー』にはならないですね、これでは」

寅衛門「はい、このプロット、ボツ!」

寅吉「途中まではいい感じのロマンポ〇ノ風味だったのに、残念です」

寅衛門「ロマンポル〇風味の出発点だからいけなかったんじゃないのか」

寅吉「そうですかね? あわや熟女の貞節セカンド・ヴァージンの危機! ぐらいのところから助ければ『ヒーロー』間違いないですよ?」

寅衛門「だからロマ〇ポルノから離れろって……」


寅吉「で、結局ここの作者は『私だけのヒーロー』というお題で話のプロットを作成できずに挫折したんですか」

寅衛門「でももったいないから、このプロット、何かに使いまわそうかと考えているようだ」

寅吉「転んでもただでは起きない」

寅衛門「エコだな」

寅吉「SDGs持続可能な生産性ということですね」

寅衛門「お蔵入りに持続性は皆無だけどな」

寅衛門「……」

寅吉「……」


寅衛門「そんなこんなで」

寅吉「虎猫ズ!」

寅衛門・寅吉「ご静読、ありがとうございました!」

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プロットの作り方:私だけのヒーロー 葛西 秋 @gonnozui0123

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