最後のデートのつもりが......

ゆりえる

誕生日を忘れられて......

 真波まなみは、今日を限りに、恋人の朔人さくととは別れる心積もりでいた。


 昨日、真波は35歳の誕生日を1人ひっそりと迎えた。


(言わなくても分かっていると思っていた。平日でお互い仕事だったし、遠慮して言わなかったら......ホントに、お祝いの電話もメールも無かった)


 起床時から、いつもより夜更かししてから就寝し、いつでも起きられるようにスマホを枕の横に忍ばせておいた。

 が、携帯電話会社からのお知らせ以外、何も届いてなかった。


(分かっているの、朔人?私、もう35歳になったの!四捨五入したら40の大台なの!私だって、認めたくないけど、女には賞味期限?消費期限?どっちか分かんないけど、とにかく子供を産もうと思ったら、限界が有るの!)


 2人が交際を始めて2年経過していた。

 年齢的にも余裕の無い真波は、時折、そんな気持ちの伝わらない朔人に対し、何度も、このまま交際を続けても良いのかと疑問に駆られていた。

 そんな時に、昨日の誕生日に、お祝いの言葉1つ無くスルーされ、いよいよ、朔人に見切りを付けようと決心し、今日のデートに臨んだ。


(これが、朔人との最後のデート!私は、もう回り道している余裕なんて無いの!)


「もうすぐ、桜の季節か。そのせいか、今日は、妙に暑いな~」


 真波が別れを切り出そうとしている事など露知らず、着ていたジャケットを脱いで半袖になった朔人。


「春って、卒業式とか入学式とか、入社式とか、出会いと別れの季節だよね。ほら、私達も、2年前の春に出会っていたし」


「そうか、僕らも付き合い出して2年か、早いな!」


(そこじゃなくて、私が言った、というところを気に留めて欲しいのに!朔人の鈍感!)


 話をどう進めて良いものか、悩ませられる真波。


「私達も春に出会ったから、別れる時も、やっぱり春になるかな?」


「いや、別れる時なんて来ないから!」


 それまでと様子が変わり、急に力強く断言した朔人。


(何を悠長な事を言ってるの、朔人?今、私は別れ話を切り出そうとしているのに!)


「あっ、これ、ゴメン。一日遅れたけど、誕生日おめでとう!昨日渡せたら良かったけど、仕事で疲れていただろうし」


 プレゼントの入った袋を真波に手渡した朔人。


「別に、プレゼントじゃなくて、一言、お祝いの言葉だけでも、昨日かけてくれていたら良かったのに」


(そうしたら、私は別れようと思わなかったかも知れないのに......)


 文句を言いながら、プレゼントの袋に手を入れると、中からは厚みの有る紙質の小箱が出て来た。


(これって......もしかして?)


「こういうのって、やっぱり面と向かい合ってだよな。真波とは、春じゃなくても、夏、秋、冬、別れなんて来ない!ずっと一緒にいてくれないか?」


「はい......」


 別れ話をする運びだったのも忘れ、頬に幾筋もの涙を流しながら、頷いた真波だった。


     【 完 】

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