開拓村の野外活動 ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~

海原くらら

日中、草原を行く馬車の中にて。

 馬車酔いしてる人はいませんか?

 え、酔ってはないけどお尻が痛い? それは我慢してください。

 草原の中に道が整備されたら、もう少しはマシになるんでしょうけどねぇ。


 到着する前に改めて言いますが、ここは開拓村を囲う防壁の外であり、人を襲う危険な魔獣のひそむ領域です。

 別の部隊が事前に魔獣を追い払っていますが、連中は足の速いのが多いですからね。

 もし魔獣らしきものを見かけたら、それが遠くであってもすぐに大声で知らせてください。


 さて、着いたようです。

 馬車が止まった後もまだ降りないでくださいね。

 先に自分ら兵士が降りて、安全確認します。


 よし、大丈夫ですね。

 皆さん降りてきていいですよー。

 それじゃ、自分のところに集まってください。


 はい、全員いますね。

 馬車はあの位置に止めておきます。

 もし魔獣を見たり、魔獣が出たとの声を聞いたらすぐに馬車の中に入ってください。


 さて。事前にお話ししたとおり、皆さんには、この場所で薬草の採取をお願いいたします。

 薬草は先日発見された、既存のものの亜種です。見本は出発前に一度見てもらいましたが、改めてお見せしますね。

 このような、丸みをおびた葉の多くついたものが今回集める薬草です。


 さて、あちらを見てみてください。あそこに一本の木が立ってますよね。

 あの木の周囲が薬草の群生地です。

 薬草は他の草よりも背が高いので、わりと見つけやすいかと思います。


 今から採取用の鎌を配ります。

 これを使って、薬草の地面近くの茎の部分を刈り取ってください。

 ああ、根っこはいらないですよ。薬効は草の部分にあるので、地面から上の部分があれば大丈夫です。


 集めるためのカゴを別に用意していますので、刈った薬草はその中に入れてください。

 それと、薬草はすべて刈り取らず、半分くらいは残すようにとのことでした。

 あまり一か所に集中せず、多少はばらけるように刈ったほうがいいとのことで。


 え? 根を残すんだから全部刈ってもまた生えるんじゃ?

 実は自分もそう思ってたんですが、弓騎士様がそうするようにと指示されましてね。

 森の民エルフである弓騎士様の言うことです。何か理由があるのでしょう。


 では、薬草の採取をはじめてください。

 あ、そうそう。まだ木の真下には行かないでくださいね。先にちょっとやることがあるので。

 ほら、あの木に黄色い実がっているでしょう? ちょっと高いところ。

 あれも取らなきゃいけないんですよ。


 いやいや待って。そこのあなた。待って。

 登ろうとしなくていいですから。

 前の村じゃ木登り競争で一番? それはすごいですけど、そういう問題ではなくて。


 木に登ってるとき、魔獣が出たらまずいでしょう。

 もし木登り途中に魔獣の大群が来て、あなたが降りてくるのが間に合わなかったら?

 最悪の場合、木の上にいるあなたを置き去りにしなきゃいけないかもしれないんですよ?


 わかったら木から離れてください。

 いいえ、離れるまで自分はこの顔のままです。

 だから離れて。はよ。


 ふう。それくらいでいいですよ。

 さて、木を登らずに実を採る方法ですが。

 いやいや、蹴りはしませんって。

 

 使うのは、この長槍ですよ。これなら届くでしょ。

 せっかくだし、あなたはこちらを手伝ってもらえますかね。

 誰かにはやってもらわなきゃならなかったし。


 さてと。

 これから自分が槍で実のそばを突きます。

 落ちてきたら、うまくつかまえてください。


 それじゃ、いきますよ。

 あのへんがよさそうですね。

 ……せやっ!


 うーん。

 さすがに一撃じゃ切れませんね。

 もう何度かやりますか。


 え、そうですよ? 枝ごと突き切って落とすつもりです。

 あら、枝を叩いて実を落とすのかと思った?

 それでもいいのですが、枝も欲しいと言われてましてね。

 どうせなら、実がついてる状態の枝を落とそうかと。


 せあっ! せいあっ!

 よし切れた!

 おっ、ナイスキャッチ。


 ふーむ。

 実の色は明るい黄色ですが、形はオレンジっぽいですね。なかなか大きい。

 あなたはこの実と同じ物、見たことあります?


 ふーむ。似てるのはあるけど、なんか違うと。

 もしかしたら、この地方特有の新種かもしれませんね。

 弓騎士様も、それを予想して枝ごと持ってきてって言ったのかな。


 そうですね。ここは新大陸のさらに奥地ですから。

 植物や動物も旧大陸と比べて違うものによく出会えるそうです。

 まぁ、明らかな新種は開拓本部に送らなきゃいけないので、すぐのお別れとなることもあるみたいですが。


 もっとも、自分じゃ見分けが全然つかないんですよねぇ。

 専門知識がある騎士様たちなんか、そこらへんで何かを拾い上げては、おもしろそうにいじくりまわしていますよ。

 ここは自分からするとただの草原ですが、見る人が見れば新種との出会いの場なのかもしれませんね。


 え? あなたにとっては村の外に出るだけでもスリルがあっておもしろい?

 見たことない魔獣と出会えるかもって、やめてくださいよ。

 魔獣の出会いがしらの一撃を食らったら、それこそこの世から永遠にお別れですよ?


 自分としては、出会いとはもっと素敵なものであってほしいんです。

 そうです。まさに歌劇でうたわれるような、ロマンティックな……。

 なにを言わせるんですか。ほら次の枝を落としますから、受け止める準備してください。はよ。

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開拓村の野外活動 ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~ 海原くらら @unabara2020

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