ヒナの一生

紫栞

ヒナの一生

我々鶏は、美味しく食べられるために生まれてきた!-はい!

ヒナになる前に出荷された仲間も多くいる!-はい!

ここでは、どんな料理になれるのか指導していく!-はい!


『ひとつ、フライドチキンとしてそのまま揚げられ某ファストフードに卸される!

ひとつ、親子丼として大人から子供まで愛される!

ひとつ、焼き鳥として酒のつまみになる!

ひとつ、バンバンジーとして食卓に並ぶ!』


ここヒナの学校ではいかに自分が今後美味しくなるか、どのような方向性があるかを教えてくれる。

ここでの卒業生は、ヒナにとっての憧れでもある。

生まれた時は当然自分の人生に絶望するが、ここでいかに美味しくなり、食べた人の栄養になれるかポジティブな部分を教えるので期待感が強いと言う。


「え、もうすぐお前出荷?何になりたい?」

「えー俺は焼き鳥かなー…え、お前は?」

「俺はー…親子丼かなー子供にも食べてもらいたいし?へへっ」

「あー子供は可愛いって言うしな」

「やっぱ小さい子に美味しいって言って貰えたら本望だろ」

出荷が間近になるとそんな会話が聞こえてくる。

レーンに分かれており、大体なりたい場所に並ぶことで目的の加工工場へ送られる。


加工工場につくと静かに眠りにつく。

そこからは目的の形までレーンにそって加工していく。

次に目が覚めるのは冷凍されるときだ。

もうすっかり串に刺さって焼き鳥として完成している。

ももも、皮も、レバーもなんでも使ってくれている。

「やっぱり先生言った通りだ!なんでも使ってくれて余るところなんてほとんどないじゃないか!」

喜びに思わずほころぶ。


冷凍されると、そこから目的地まで運ばれる。

ガタンガタン!ごとっ!

車が止まり、後ろのドアが開かれる。

ついに目的地に到着する。

ダンボールごとどんどん下ろされる。

ドキドキしながらその時を待つ。


ダンボールが下ろされると居酒屋へと運ばれた。

居酒屋へ着くと直ぐにダンボールから巨大冷凍庫へと移される。

そこからは順番に焼かれに出ていく。

それを今か今かと待ちわびていた。


ついに自分の順番になる。

しかしそこで愕然とした。

綺麗に食べて貰えると思って、美味しく食べて貰えると思って出てきたのに、テーブルには食べ残しや食べかすが沢山落ちていた。

注文した人達はかなり酔っているのか食事処では無い。

1人は吐き気がすると立ち上がってどこかへ行ってしまった。

「こんなはずじゃ…」

思わず涙目になる。

もっと美味しい美味しいって沢山食べて貰えると思っていた。

現実に落胆する。


結局自分は身1つだけ残された。

悲しい気持ちと不安な気持ちに襲われる。

そう、食べ残しはまとめて捨てられる。

「臭いし、汚いな…」

そこには一緒に冷凍庫で出番を待っていた焼き鳥もいた。

みんな悲しそうな表情をしていた。

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ヒナの一生 紫栞 @shiori_book

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