3膳目 4月1日(金) 本日のオススメ「キャラメルフラペチーノ・追加マシマシ」
今からだいたい120年前。
銘治時代のとある街角に、大きな洋館がありました。
その1階では「洋風茶房」が営まれており、いつもお客さんで賑わっています。
そこで働く稲葉郷ちゃんは、とある名剣と同じ名前を持った女の子。
食いしん坊の稲葉郷ちゃんは4月1日も腹ペコです。
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「ねぇ、稲葉郷……」
「ん? どうしたの、城和泉さん?」
「先週に続いて今日もヒマね…」
「たしかにお昼すぎたらお客さん来なくなったよね」
「みんなお花見でも行ってるのかしらね」
「こっちの方でももう満開だし、こんなに天気も良くてあったかいと、
お外の方が気持ち良さそうだよねー」
何だかいつもと違って今日の城和泉さんはすごく眠そうなんだよね。
大丈夫なのかなぁ……
でも、今はお客さんもいないし、ちょっとくらいなら休憩してもいいよね。
窓側の席でお昼寝したら?って言ってみようかな?
それはそうと「この日は毎年そうなのよ」ってさっき言ってたけど、
あれは何のことだったんだろう?
「ねえねえ、城和泉さん」
「……」
「城和泉さん?」
「……な、なによ……今日もしりとりなんか……してあげなくもないんだからね」
「ちょっと何言ってるかわかんないです……
おーい、城和泉さーん!」
「……はっ、どうしたの!? お客さん??」
「カウンターに肘をついて居眠りするくらいなら、
あそこの窓側の席でお昼寝してきたら?
お客さんが来るの見えたらすぐ起こしてあげるからさ?」
「は、働いてる途中にそんなこと……
普段ならできるわけないけど、今日だけはお言葉に甘えてもいい?」
「もちろんです!
さっきも言ってたけど、今日は特別なんでしょ?」
「そ、そういうことなら、ちょっとだけ休憩するわね」
「はーい、おやすみなさーい!」
さて、わたしは何しよっかなー。
って、城和泉さん、もう寝ちゃってるよ。
よっぽど眠かったのかなぁ……
まぁ、こんな天気のいい昼下がりなら誰だって眠くなっちゃうよね。
それにしても城和泉さんの寝顔、かわいいよねー。
ふだんのキリっとした感じの顔もいいけど、
いまは素直な女の子って感じでずっと眺めてられます。
今日はもうお客さんこなくてもいいんじゃないかなぁ……
「…………!」
「………泉さん!」
「んん……」
「城和泉さーん!!」
「……ごはんはおいしい、は反則なんだからね……むにゃ」
「夢の中でしりとりしてるよ、
先週よっぽど悔しかったのかな……」
「じゃなかった、ねぇねぇ、お客さんきちゃったよ……
だから、起きてくださーい! 城和泉さーん!」
「……はっ!?」
「起きた?」
「私、まだ負けてないわよ?」
「はいはい、しりとりはまた今度ね?
それよりもお客さんきちゃったから、準備しないと」
「そう、お客様がお見えになられたのね?」
「う、うん?」
「なら、早速お出迎えしないと!
バリスタとしての腕がなるわね」
「はいっ! って、ばりすた?」
「何言ってるのよ、稲葉郷。
ここはお客様にとって素敵なサードプレイスなの。
おいしいコーヒーで素敵な時間を過ごしていただくわよ!」
「んん? さあど、ぷれいす?」
「ええ、自宅でも職場でもない、第三の居場所。
ここはそんな時代を先ゆくカフェなんだから!」
「ちょっと何言ってるかわかんないです……
それに、100年くらい時代を先ゆき過ぎだよ?」
「そんなことより、オーダーお願いしてもいい?」
「わ、わかった、いってきますっ!」
お昼寝から起きて、急に城和泉さんのキャラが変わったどころか、
何か時代設定も変わってない?
よくわからない言葉ばっかり出てきてたよ?
この調子で、お客さんもいつもと違う感じだったらどうしよう……
よくないことは続くとか、類は共を呼ぶとか言うよね……
それでこういう予感ってだいたい当たっちゃうんだよねー。
わたしで対処できる感じだったらいいのになぁ……
「お待たせしました! ご注文はお決まりですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で」
「はい?? も、もう一度お願いしてもいいですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お願いします!」
「も、申し訳ございません、他の者に代わりますので少々お待ちくださいーー!」
や、やばいです。
あのお客さん、何を言ってるか全く聞き取れなかったです。
あれは日本語じゃないよね。
英語? なのかなぁ……
でもあのお客さん、見た目はそんな風じゃなかったし……
というか、そもそもこの店にあんな長いメニューない、よね……
わたしが知らない間に増えた……?
いやいや、それはないはず!
とにかく、あの雰囲気は何だか今の城和泉さんと同じ匂いがするよ。
何と言うか、意識が高そうというか……
「じょ、じょういずみさーん! 助けてくださーい!」
「どうしたのよ、そんなに慌てて…… それで、ご注文は?」
「その、ご注文が、お客さんに、なんだかよくわからない呪文みたいなこと言われて……
何もわからなかったんですー!」
「もう、しょうがないわね、稲葉郷は……
いいわ、私がオーダー聞いてきてあげる!」
「おお、何だかすごく頼もしい!?
い、一応、わたしもついていくね?」
「そう? まぁ別にいいわ。
はやく行きましょう!」
そういって、颯爽と歩いていく城和泉さん。
やっぱり、何だかいつもと雰囲気違うよね……
でも、今の城和泉さんなら、さっきの呪文にも対応できる気が……する……
というか、城和泉さんでも対応できなかったらどうしよう……
と、とにかく、がんばれ、城和泉さん……!
「お待たせして申し訳ございません。
ご注文をお聞きしてもよろしいですか?」
「グランデチョコレートチップエクストラコーヒーノンファットミルクキャラメルフラペチーノウィズチョコレートソース、お願いします!」
「はい、かしこまりました!
グランデチョコレートチップエクストラコーヒーノンファットミルクキャラメルフラペチーノウィズチョコレートソースですね、少々お待ちください!」
「ええええええーーーーーーっっ!!!!!」
「ちょっと、何大きな声だしてるのよ!
早くカウンターに戻るわよ、稲葉郷」
「ねぇねぇ、城和泉さん」
「どうしたの?」
「城和泉さんはいつから魔法使いになったの?」
「魔法使い?」
「だって、あんなに長くてよくわからない呪文、一瞬で理解してたし……」
「何言ってるのよ、あれは
一番大きなサイズのカップに、氷を砕いてつくったコーヒーミルクを
作るんだけど、それにキャラメルシロップもまぜるの。
通常版はそうなんだけど、それよりもコーヒーを濃くして作った上に、
ミルクも無脂肪乳で作るのよ。
そして、さらにその上にホイップクリームを乗せて、
キャラメールソースをかけるんだけど、
チョコレートのチップとチョコレートのソースも追加でかけた、
すごく美味しい飲み物のことよ」
「ちょっと何を言ってるかわかんないです……」
「だから、グランデがカップのサイズのことで……
・・・・・・・・・
・・・・
・・
「………郷!」
「すぅ……」
「……葉郷!
「……ん? んん。。。」
「もう、稲葉郷っ!」
「……むにゃ」
「お客さん来たわよ、起きなさいっ!」
「……う、うん?」
「もう、やっと起きたの? 早くシャキっとしてよね?」
「…………ヤサイマシマシアブラマシマシカラメニンニクでお願いしますっ!
すやぁ……」
「ちょっと何言ってるかわかんないわね……」
おしまい
稲葉郷ちゃんは満腹になりたい! きりん屋 @giraffe_store_
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