テレパスの心

@shukuipu

第1話プロローグ

株式会社宝山

 ここは1973年初代社長の守山重信が設立してから2021年まで目覚ましい成長をしてきた会社である。


 宝山の本社ビル数階の一室で黙々と作業をする女性がいた。その部屋はとても静かだが、キーボードを叩く音だけが響いていた。

 彼女はなにかに気がついた様に顔を上げ手を止めた。デスクの端の方に有るペン立てからペンを。デスクの中から紙を取り出し、ペンを紙の上で踊らせた。そしてその紙を持ち扉の鍵を開け、部屋を出て、扉に貼り付けた。部屋に戻り鍵を掛け、再びキーボードを叩き始めた。

 数秒後エレベーターが開き2年先輩の藤田が降りてきた。足早に女性がいる部屋に行くと扉に貼られている紙に目を留めた。

「またかよ。安東め。予知でもしているのか?」

 紙には今夜は無理、とだけ書かれていた。藤田はチェッと舌を鳴らしエレベーターに戻っていった。

 そして数時間後、定時丁度に与えられた仕事を終え退社し安東は帰路に着いた。 

 帰り道は、あの部屋よりも何倍何十倍も騒がしかった。安東以外にとっては静かだろうが。目に映る看板などに意識を注目しながら30分ほど歩き家に着いた。

 ソファに腰を下ろし、一息つき二十分ほどでシャワーと寝間着に着替え歯磨きを終え、就寝する準備を整えた。寝室の扉を開き直ぐ側の壁についたスイッチを押し、電気を切りベッドに潜り込んだ。目を閉じ、数分すると安東は眠りについた。


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 夏の暑さと蝉の声により目を覚ますと、12歳の安東は父が運転する車に乗っていた。砂利道を走っている為、トランクに入っている荷物がリズミカルに音を立てている。「もう少しで着くぞ」安東の様子を見て父が言った。10分ほどすると、祖母の家が見えてきた。家に着くと、両親が荷物を運んでいる中安東は家の中でコップに注がれた冷えた麦茶を飲んでいた。熱った体を冷ますために麦茶を喉に流し込んだ。空っぽのコップ机に叩き付けた。

 

 すると一変して何処かの深い深い森の中に1人だけで立っていた。何が起こったの?一瞬のことに驚愕し、辺りを見回していると右手の少し離れた所に飛んでいる、青白く輝く蝶が目に留まった。蝶の動きを目で追っていると、金属音の様な羽音の様な耳を紡ぐ様な音が聞こえてきた。途轍もなく不快な音だったので、耳を素早く手で塞いだ。だが、それでも音は聞こえ続けた。冷や汗が額を伝う感覚が有り、その場にうずくまった。嫌だ。止めて。止めて。呼吸が粗くなる。固く閉じた目を少し開くと、先ほどの蝶が見えてきた。すると、何故だろう。安東には、「こちらに来い」と言われた様な気がした。変だと思いながらも震える体を起こし、藁にもすがる思いで蝶について行った。蝶の速さは安東と同じぐらいで、時々振り返る様にして飛んでいた。

 30メートルほど進むと、開けた場所に出た。そこは、中心にゴツゴツとした岩が一つ。そしてそれを中心として半径5メートルほどの円形の場所だ。岩の上に目をやると・・・

 

 雑音が響き、場面が変わった。布団の中だ。困惑した表情で辺りを見回す。耳を塞いだ。声が聞こえる。力強く塞いだ。もっと、もっと、もっと。

 

 「何が、起きたの?」

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