お題140字小説まとめ②

①お題:『なびく』『林檎』

登場人物:如月響、幸徳井玲子


一瞬、何をされたのかわからなかった。「あの、これが頭についてて」響の手元には花びらが一枚。「会長さん?」訝しげな声にはたと我に返った玲子が首を振る。「いえ、ありがとう」そこで、いたずらに吹いた風に煽られて髪がなびく。露わになった耳が林檎のように赤くなっていたことは、誰も知らない。



②お題:『知らない』『名前』

登場人物:吾妻愛生、平良・F・和希


あ、ラブ&ピースだ、という声が聞こえ、そちらに向けて愛生が軽く手を振る。「や〜アタシらもすっかり有名になっちまったなぁ」自分で思うのもなんだが、もう校内で知らない生徒はいないのではないだろうか。隣で歩いていた和希が微笑んだ。「そうだね。名前負けしないよう、がんばらないと」「だな」



③お題:『林檎』『シャツ』

登場人物:如月響、三船梨々花


口内にふわりと甘酸っぱい風味が広がる。このパンのソースに使われた林檎の味だろう。「これ美味しい!……って、やば!」危うく溢れたソースがシャツの上に垂れそうになり、慌ててパクつく。そんな梨々花を呆れたように見ていた響も同じものを口に含む。まぁたしかに、なかなか美味しいかもしれない。



④お題:『画面』『嫉妬』

登場人物:篁竜之介


自分は今、あの転科生に後れを取っている。その事実がどうしようもなく竜之介の身を焦がす。これは断じて嫉妬ではない。ふと気づけば手元のスマホがスリープしていた。その真っ黒い画面に映っていたのは、燃える己の瞳。「負けてたまるか」そのうち、絶対に追い抜かしてみせる。でなければ、俺は──。



⑤お題:『机』『はい』

登場人物:幸徳井玲子、鵜飼兼人


はい、と机に置かれたペットボトルを見て玲子は目を丸くした。「あまり根を詰めすぎないようにな」鵜飼にそう労われ、礼を述べて深々と頭を下げる。この教師は色々と気にかけてくれる。そういった姿勢を尊敬しているし、自分もまたそういう人間でありたいと強く思いつつ、玲子は差し入れに口をつけた。



⑥お題:『声』『ペン』

登場人物:不破要一、名倉満瑠、平良・F・和希


ペンを走らせる音だけが響いている。「やっほ〜」静寂に支配されていた空間に、声が入り込んできた。「名倉うるさい」「え〜ひどいなぁ」「ごめんヨーイチ、邪魔したかな?」眉を下げる和希に、休憩するから大丈夫だと言う。「そーそー少しは休まなきゃ」「名倉うるさい」「もー要ちゃんてば冷た〜い」



⑦お題:『投げる』『赤』

登場人物:幸徳井玲子、古河楓、吾妻愛生


廊下を歩いていると、憧憬の視線が向けられる。手ぐらい振りゃいいのにと言葉を投げる愛生だが、すぐにまぁ会長はそーやってるほうがウケいいかと赤のフレームを軽く押し上げた。楓がちらと横目で窺う。依然凛々しく歩くその瞳に陰を見出すも、玲子の心情を慮った上で友は気づかぬふりをするのだった。



⑧お題:『楽しみ』『先生』

登場人物:如月響、土御門深晴


「……あの」「んー?」「いつまでこうしてれば?」問いかけに返ってきたのは微笑みだけ。響は頬を撫でられている。その手がふいにするりと下り、うなじに触れた。先生、と抗議の声とともに手を振り払うと、深晴はなぜか笑みを深くする。「あら残念。私の楽しみなのに」この人の嗜好は一生わからない。



⑨お題:『吐息』『しかし』

登場人物:如月響、三船梨々花、篁竜之介


「竜、一緒にお昼食べよ〜」「食うわけねぇだろ」すげなく返され、梨々花が呼び止めるも間もなく竜之介は行ってしまう。吐息がこぼれる。そのぐらいしてくれてもいいのに。「また断られちゃった。あたしたちだけで食べよっか」自分の参加は確定事項らしい。しかし文句を言う間もなく、響は連行された。



⑩お題:『指』『どこ』

登場人物:如月響、古河楓


「響」「うわっ」突然目の前にどこからともなく降ってきた楓に驚き、響は思わず足を止める。「そこ、段差じゃぞ」楓が指さした先には、確かに段差がある。ぼーっとしていたため、このまま進んでいたらあやうく躓くところだった。素直に礼を言うと、楓は笑って跳んで去っていった。本当に身軽な先輩だ。



⑪お題:『消化』『視線』

登場人物:如月響、篁竜之介


ふと視線を感じ、竜之介は首を巡らせた。その先で響がこちらをじっと見ている。「なんだよ」「…別に」妙な間を空けてそう答えてから去っていった。消化不良な思いを抱くも、気にしないことにする。──彼が頭に葉がついていることに気づいたのは、その少し後のことだった。「あのやろう、言えよ…!」



⑫お題:『吐息』『スカート』

登場人物:幸徳井玲子


はっと我に返った玲子は時計を見た。やってしまった、もうこんな時間だ。「……また怒られてしまうわね」親友のしかめっ面を思い浮かべ、吐息をこぼす。一度集中するとついつい時間を忘れてしまう。悪癖だと自覚はしているのだが。首を振った玲子は立ち上がってスカートを正すと、生徒会室を後にした。



⑬お題:『本』『ネクタイ』

登場キャラクター:篁竜之介、三船梨々花


ネクタイを緩め、いざと竜之介が手元に目を落としたところで、ふいに声をかけられた。目を向けた先に梨々花がいる。「何してんの?」「見りゃわかんだろ」広げた本を仕草で示すと、部屋で読めばいいのにと首を傾げられた。彼はそれに無言で返す。続きが気になって仕方なかったから、とは言えなかった。



⑭お題:『髪』『空』

登場キャラクター:如月響


開けた窓からぼんやりと夜空を眺める。一面の星がチカチカと瞬き、仄かに地上を照らしていた。そよそよと吹く風が前髪を揺らし、顔にかかる。それを鬱陶しそうに払いのけ、息を吐いた響は窓を閉めた。そうして離れゆく背を月光が追いかける。微かに温かみのある光は、まるで門出を祝うかのようだった。



⑮お題:『机』『退屈』

登場キャラクター:如月響、氷輪


響が机に向かって黙々と筆を動かしていた。傍らにいる氷輪は退屈そうに寝そべり、くゆりと尾を揺らしている。しばらくして、ふいに響が筆を置き、ん〜っと腕を上にあげて伸びをした。「できた〜…」「1枚だけではないか」「今日はもう無理」そう言ってさっさと席を立つ主に、氷輪は呆れた息をついた。



⑯お題:『答え』『病』

登場キャラクター:古河楓、名倉満瑠


楓が降り立った場所には、細切れにされた化け物の遺骸が散乱していた。「おぬし、また遊んだのか」呆れ混じりに言うと、満瑠は笑いながら答えた。「いや〜、癖なんだよねぇ」癖というより、これはもうそういう病と言っても差し支えないのではないだろうか。そう、しかつめらしい顔で思案する楓だった。

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ものぐさ降魔士奇譚 玖凪由 @kunagiyu

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