主人公である吉祥寺 いなりは高校生になった普通に憧れる女の子。なぜ彼女は普通を目指すのか――それは実母が妖怪社会で有名な大妖怪・九尾の狐なのだから。
今日、半妖が主人公の物語は多くみられますが、その多くは妖怪とも人間とも距離を置き、おのれの出自と孤独に苛まれるというヘビーな内容が描写されることがほとんど。しかし本作の主人公は仲睦まじい父母のもと大切に育てられ、自分も人間社会に溶け込もうと奮起しており、非常に明るいテイストとなっております。ついでに言えば作中の描写は彼女の学校生活に始終しているので、学生の方やかつて学生だった方も共感できるのではないでしょうか。
さらに言えば、物語の序盤よりいなり嬢は身内以外の妖怪や、不思議な力を宿した人間の少年との出会いを果たすわけですが、遭遇してすぐに相争うようなありがちな展開には陥らず、ほのぼのとしたテイストになっております。いなり嬢はもちろんの事、身体能力の高い天然な鬼の少年や、温和だけどミステリアスな鴉天狗君、大妖怪ながらも気さくなヒロイン(女傑)たる狸娘など、魅力的な妖怪がたくさん出てきます。
とはいえ単なる日常ものとして物語が収まる訳ではなく、敵対するモノと闘うという妖怪物らしい展開が待ち受けてもいます。しかしながら主人公を筆頭に妖怪たちの心は善に近しい存在なので、裏社会などと言う不穏なワードが見え隠れしつつも、爽やかな印象を与えてくれます。
大妖怪の娘とその仲間たちはどうなっていくのか――続きが楽しみな作品です。