生まれ変われるなら
織宮 景
謎の女
この世界には空を飛ぶ生物が数多存在する。ペガサス。キメラ。不死鳥。デビル。ドラゴン。空を制す者が勝つと言われるほどこれらの者が要注意される時代。そんな中、ある冒険者が生死の境に立っていた。
猛々しい岩塊が至る所に聳え立っている場所。霧が立ち込める湿った大地を青年が乗った馬が駆ける。この青年は冒険者と言われる者であり、ここには荷を運ぶ依頼で来た。
しかし、その依頼の最中、問題が生じた。向かう道中で『空の悪夢』という異名を持つ化け物の縄張りに入ってしまう。化け物の名は『
上空で女の悲鳴が聞こえる。それは喚呼鳥達の鳴き声だった。何匹もの喚呼鳥が空から落ちてくる。何が起こったのかと青年は馬を止める。地面に落ちてきた鳥達を見ると、矢が刺さり血を流して死んでいた。霧が立ち込める中、周囲に目を走らせる。一つの岩塊に人影が見えた。お礼を言おうとその岩塊に近づくと、矢が青年の頬を通過した。
「俺は敵じゃない!礼をしたいだけだ」
誤解を招いていると察した青年は声を上げる。すると人影は岩塊から飛び降りた。しかし、並の人間が飛び降りれば大怪我を負う10m近い岩塊から降りてきたのだ。それも軽々と。霧の中から感じる殺気に息を呑む青年。段々と人影が近づいてくる。そしてその人影が姿を表す。出てきたのはこちらに矢を向けるフードを被った人物。
「何者だっ!?」
声を聞いた青年は驚く。声の主が女であることに。
「あなたに敵意はない。先程は助けていただきありがとう」
その女は矢を下げたが、フードから見える鋭い眼光はまだ青年のことを警戒していた。
「この濃い霧の中、ここを脱出することは困難だ。霧が晴れるまでここで一緒に野宿しないか?」
「お前と野宿だと?お前が私を襲わない保証はどこにある?」
「信用できないならここで俺を殺してもいい」
青年の発言に動揺する女。
「気は確かか?」
「互いを信用せず一緒にいるのはこの危険な場においてなによりも危ない」
説得をし、女は了承した。焚き火をつけて晩飯を作ろうと、周辺に転がっていた喚呼鳥の死体をかき集めた。皮を剥いで血抜きを行い、鳥肉を焼く。
「肉食べないのか?腹が減ったら日が出た時に力が入らず動けなくなるぞ」
焼き鳥を食べることを勧めるが女はこっちに見向きもしない。青年は自分の分を食べ、女の分を残すと場を少しの間離れた。
焚き火の場所に戻ると、残していた女の分は無くなっていた。食べたことを確認して安心する青年。その後、交互に起きながら周りを見張り安全を確保しようと提案し、女は「分かった」と引き受けてくれた。
最初は青年が見張りの当番だったが、さっきまであれほど警戒していたというのに女は寝息を立てていた。ずっと気を張っていたのだろう。青年と会う前から。見張りをしていると地面に鳥の羽が落ちているのを見つける。だが喚呼鳥のものではない。それは照り輝く黄色であった。
夜が明け、霧が晴れた。お互い夜を生き延びることができた。青年が出立の準備を進めていると、地面が揺れ始めた。地震ではない。誰かがこちらへ向かってくる揺れだ。その振動に怯える女。やって来たのは王国騎士団であり、先頭に立つ将校が青年に話しかけてきた。
「我は王国騎士団の将校を務めるリゥースイである。ある者を探してここにやってきた」
「ある者とは?」
「ハーピィーだ。王国に害をなすハーピィーの巣を襲ったのだが、その残党が逃げていてな」
ハーピィーという単語を聞き、昨日見つけた羽のことを思い出した。ハーピィーとは女と鳥の身体が混ざった人面鳥であり、王国が討伐対象として指定しているものの一つだ。
「ここには来ておりません。そのような珍しいものがいればこの場ですぐに伝えております」
「そうか。情報提供に感謝する………ところでそこの女は」
将校が女へ手を伸ばしたが、青年が将校の腕を掴む。
「私の仲間に何かようでも?」
「いや、失礼した。ではさらばだ」
騎士団達が去っていった。震えていた女は膝をつく。
「ほら、行ったぞ。将校の気が変わらぬうちに逃げるんだ」
「えっ?それって」
「お前、ハーピィーだろ?ここにいたらまた奴らが来るぞ」
自分がハーピィだとバレていたことを明かされ、青年から距離をとる女。
「警戒しなくていい。言ったろ?俺はお前を襲う気なんてない」
青年がそう言うと、フードを外し、ハーピィーが顔を見せる。その髪色は昨日見た照り輝く黄色であった。そして「ありがとう」と一言残して去っていった。青年が人である限りは異種族との恋は叶わぬが、生まれ変わるならあの子を守れる存在になってあげたいと願った。
生まれ変われるなら 織宮 景 @orimiya-kei
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