その球場飯の味は説明しづらい
羽間慧
なぜなら、その肉の正体は……
ルイちゃんの名前は、野球の
「お前の名前は、四つの塁を結んだ形から命名したんだよ。宝石のダイヤじゃない」
野球好きの父親は、幼いダイヤに話しました。もしも男の子だったら塁と名付けたと。
ダイヤはムッとしました。父親が野球中継を見るせいで、自分の見たい番組をリアルタイムで楽しめないからです。名前ですら野球の影響を受けているだなんて、げんなりしました。もらえるはずだったルイという響きが羨ましくなります。
もしも女の子が生まれたとしても、自分は絶対にルイの名前を付ける。性別なんて関係ないんだから。
ダイヤは、心に固く誓いました。そして、子どもには夢を持たせたいと思いました。嘘でもいいから、宝石のダイヤだと肯定してほしかったのです。
「ママ、あれはピヨ蔵のお肉なの?」
母となったダイヤは、ルイちゃんの眼差しから幼少期を回想していました。
自分の回答次第で、夢が壊れてしまう。壊れる規模も、自分次第で最小限に抑えられる。
そう感じると、あのときの父の気持ちが分かるような気がしてきました。
ダイヤの頭を悩ませているのは、球場飯のメニュー表。ネギを背負うピヨ蔵のイラストがありました。その下には、ねぎま、つくね、ささみの文字が。
あなた、焼かれたら駄目なトリでしょう?
ダイヤは眉をひそめます。東京ピヨピヨズのマスコット・ピヨ蔵が、メニューとしてファンに提供されるなんて。
青ざめたダイヤの手を、ルイちゃんが握りました。
「ママ?」
言えない。ピヨ蔵が焼き鳥になっているだなんて。そもそも「ピヨ蔵の肉盛り合わせ」というメニュー名がおかしい。子どもにどう説明すればいいのだ。ピヨ蔵推しの我が子に。
ダイヤは思考をフル回転させ、最適解を導き出しました。
「ピヨ蔵はね、ダイエットしているのよ。いらなくなったお腹の肉を、みんなに分けてあげているんだわ」
「そうだよね。ピヨ蔵は優しいもん」
ルイちゃんは満面の笑みを浮かべました。
セーフ!
ダイヤは冷や汗を拭います。納得してもらえてよかったと、心の底から思いました。
その球場飯の味は説明しづらい 羽間慧 @hazamakei
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