定期観測

夏生 夕

第1話

開けるのが遅い。

おいこら、遠路はるばる来た友を迎える顔か、それは。いいから上げろ。

はぁ仕事?知らん知らんそんなもん。いいから上げろ。お邪魔します。


相変わらずきったねぇ部屋だな。お前これ、生活できてんの。生活感有り余ってるな。

でー、こっちは・・・やっぱりなぁーんも入ってないわけね。水ばっかりこんなに冷やしてたってしょうがねぇだろ、冷蔵庫には冷蔵庫の仕事をさせろ。


もう一回聞くけど、お前これ、生活できてんの。


そんな可哀想なお前には、ほらこれ土産。

いつもの商店街で買ったんだけどさぁ、なんか有名なとこなの?並んだわー。

前まで何があった場所だったっけ。

少し来ない間にこの辺も変わるなぁ。あそこだよ、十字路。豆腐屋の隣の。

は?あーはいはい、知らなかったのね。期待はしてなかったけど、本当に相変わらずだな。

そんなんじゃまた怒られるぞあの眼鏡女史に。言うまでもないか。

きっついだろう彼女。そっちも相変わらずらしいな、顔に出すぎだよ。七味どこ?


で、調子はどうよ。あれ?お前これ、飯炊いたの!?珍しいな、もらっていい?

で、調子はどうなのよ。書けてんの。うわこの米うまい。

へーお隣さんから。珍しいな、ご近所付き合いってやつ。米もらったお礼はしたの。

・・・なに、しょうゆってあの醤油?調味料の?それお返しになってんの?気が利かねーなぁ。せっかくなんだからちゃんとしろよ。俺が置いてった酒、どこにしまった?


いい加減に話逸らすな。調子はどうなんですか。原稿は進んでいるんですか。

なんだそれ、スランプってこと?そもそもスムーズに書けてたことなんてあんのお前。

そうだろうよ。知ってた。まぁ飲めよ。

締切ぃ?知らん知らんそんなもん。いいだろ別に今日くらい。

これも食えよ。並んでまで買ってきてやったんだから、ありがたーくいただけ。

お前タレ派?塩派?いや俺はタレ派だからそっちしか買ってきてないけど。

塩が食いたきゃ自分の足で歩いて買ってこい。

大体引きこもりすぎなんだよ。そんなんじゃこの砂肝だってとり皮だって、うまさ半減だぞ。

たまには外出て、っていうかその前に部屋の掃除して、というより何より窓を開けろ。

空気を入れ換えろ。

お前なぁ、ただでさえ書けてないって自覚あるならさぁ。先輩的には、書けないことは書き続けることでしか解決しないと思うよ。

それにしたってお前、書ける環境ってもんがあるでしょうが。

というのを、俺もあの眼鏡に叩き込まれたなぁもっと、ものすごく厳しめに。彼女なりに心配してるんだとは思うけどね。


・・・いや、知らね。

あの人とは連絡とってないし、別に。

俺が飲みたかったから来ただけだし。

酒も置きっぱなしだったし!

いいから食えよ!この手羽先も美味です!!

美味いもん食って飲んで、頭からっぽにして散歩行くぞ。焼き鳥の、この店、場所教えてやるからお隣さんにちゃんと礼しろ。米美味かったって伝えとけ。

やるべきことをしろ。あと買い出しもして、冷蔵庫にも仕事をさせろ。

話はそれからだ。

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定期観測 夏生 夕 @KNA

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