最終話 夜明け

 そうして、私は毎年、お盆には必ずお墓参りに行くようになりました。


 ※十年以上経過、それまで心理学やら心の折り合いつけるような本は読んでこなかったです。これ以上どうこう考えるでもなく過ごしていました。


 日々、忙しく過ごし、毎年、毎年、欠かさず、墓参り。お水をたっぷりかける。「熱かっただろう」って火事を昨日のことのように思い出すのだ。 


 でも、ある時、故・小林麻央さんのブログあるいはTVインタビューかネット記事を目にした。ちょっと記憶は曖昧だが、その小林麻央さんの言葉を抜粋


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 私が今死んだら、

 人はどう思うでしょうか。

「まだ 34 歳の若さで、可哀想に」

「小さな子供を残して、可哀想に」

 でしょうか??

 私は、そんなふうには思われたくありません。

 なぜなら、病気になったことが

 私の人生を代表する出来事ではないからです。

 私の人生は、夢を叶え、時に苦しみもがき

 愛する人に出会い、

 2 人の宝物を授かり、家族に愛され、

 愛した、色どり豊かな人生だからです。

 だから、与えられた時間を、病気の色だけに

 支配されることは、やめました。

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 ※この記事の真意はどうあれ、それを目にした私は、ふと友だちに変換した。


 『私が火事で死んだのは悲劇だったかもしれない。だからって私の人生が不幸だったわけではない。なぜなら火事が私の人生を代表する出来事ではないからです』


 そうだ、確かに火事で亡くなったのは、悲しい出来事。だけど、彼女はそれまでの人生、平凡に暮らしていた。


 私は火事以前の思い出を仕舞いこんでいた。彼女=火事のように、お墓参りの時以外は彼女を思い出そうともしなかった。ずっとそうだった。だけどもう、火事で亡くなった可哀そうな子ではなく、今は苦しくないんだ。だったら悲しい思い出だけが彼女ではない。そう思うことができてはじめて、小学校時代の友だちの記憶を少しだけど、取り戻すことができた。


 ***


 ~小学校時代の友だちとの思い出~


 ⁂ 友だちに誕生日プレゼントをビーズで指輪を作り、渡そうとしたら無くし、誕生日から一ヶ月過ぎた頃、自分の部屋で指輪を発見する。

 私は約束もなく友だちの家にふらりと現れ、食事中の友だちに「誕生日プレゼント」って素手で指輪を渡した。友だちはポカンと呆れながらも「ありがとう」と言って受け取ってくれたこと。


 ⁂ 友だちの家でリンゴジュースとオレンジジュースをもらい、二人でジュースの飲みあいして、友だちの親に貰ったジュースにもかかわらず、私は「○○ちゃんの方が私のジュースたくさん飲んだでしょ」って泣いて困らせたのに、「そうだね、ごめん。桃子ちゃん。私の分の残りのジュースも全部飲んでいいよ」って、大人の対応だったので、私が恥ずかしくなったこと。


 ⁂ 友だちの姉がなにかのチケットが当たって大喜びで走って、チケットが風に飛ばされ田んぼに落っこちて、どうしようかと近所の仲間と相談していたら、友だちのお姉さんが拾いに行こうとして、田植え時期に田んぼに入って、植えた苗がぐちゃぐちゃになり、みんなで農家の人に怒られたこと。


 ⁂ 夏の暑い日、友だちのおばあちゃん家に学校帰り、仲間で遊びに行き、風鈴が鳴る縁側に座りアイス、スイカを食べたこと。


 ⁂ ある晴れた日、これから先どうするの? って聞いたら、「姉の面倒は私が見る」「だって姉が好きだから」って、めずらしく笑った友だち。


 


 ***


 何でもない日常の出来事がそこにあった。思い出すだけでも恥ずかしい。私の失礼エピソードばかりだ。もっと友達のいいところあったのにまだ思い出せない。(逆にもう年齢的に?)


 本当に優しくて、いい子で、ひとつも嫌な事をいう子じゃなかった。それなのにその頃の私ときたら、自分からしゃべらないな~なんて思っていた。もしも、生きていたら、私は社会人になり一人暮らしをして、あまり会わなくなっていたかもしれない。でも、実家に帰ってばったり会ったら、思い出に花を咲かせていたよね。それは永遠に叶わない。



 わたしは今、あなたがここにいないことが、とても寂しいと思う。


 

 ……やっと、そう思えるように、なれたんだ。辛いことを思い出したくないから、あなたのいいところもあの日、全部、吹き飛んでしまった。空白の記憶。時間はかかったけれど、小学校時代のあなたに会えた。

 今度、またお墓参りするときは、火事のことを思い出すんじゃなくて、楽しい思い出を話そうと思う。


 今でも言葉にしようとすると涙出そうで、多分友人に話すことはない。これは彼女が地球の片隅に13年間生きて、優しくていい子だったと知ってほしかった。それだけの話です。

 ちなみに「夜明け」の題名は友だちの名前、太陽を意味する漢字から考えました。ギラギラ暑い夏の太陽よりは明け方、日が昇る優しい希望に満ちた美しい名前の女の子。


 ようやく、私の中の夜が明けました。読んでくれてありがとうございました。


               おしまい




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夜明け 青木桃子@めまいでヨムヨム少なめ @etsuko15

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