第3話 お墓参り

 中学の悲しい出来事から逃げたくて、高校時代は亡くなった友だちを考えることはなくなった。高校の友だちと遊んだり、好きな子の話をしたり、部活に励んだりしていました。


 そして、家から見えるお墓を見ても何も感じなくなりました。とはいえ、年に二回、墓参りに行くも、火事の状況を思い出しては胸が苦しくなり次第に遠ざかりました。久しぶりに行ったら、友だちとその姉、新たに友だちの母の名前が刻まれ、余計苦しくなり、私はとうとうお墓参りにも行かなくなりました。


 学生生活、仲間との旅行、趣味、忙しく充実した日々を過ごし、彼女のことを思い出すことはなくなりました。

 それから、私の母も亡くなり、

 社会人になって、一人暮らしをしました。


 慣れない一人暮らし、人間関係、仕事と恋愛、悩みが増え、精神的に疲れ、アパートに帰ると、毎日、泥のように眠っていた―。



 ……夢を見た。



 亡くなった友だちのお姉さんのうしろに控えめに、申し訳なさそうに友だちが立っているのが見えた。


 初めてだったので驚いて目が覚めた。時計を見ると、夜11時過ぎ。


 次の日、地元の友人に電話で聞いたら、

 夢を見たその時刻、

 友だちが亡くなった日付と時間が、同じだった。



 私は、いつの間にか、友だちの命日も忘れていたのだ。



 もう何年も彼女のことを思い出したことはなく、急に夢に現れたので、何かあるのかなと思い、休日を待って私は実家に帰った。

 そして、何も持たず、友だちのお墓の前まで来た。友だちの墓と平屋建ての一軒家はすぐ目の前にある。全焼したあと、建て直したが、その後、友だちの父親は結婚して今は誰も住んでいない。

 とても寒い日だった。枯れ草が生えた誰もいないお墓の中で、友だちの墓だけ新しいお花が飾ってあった。親族や地元の友人が来たのかな……。


 私は、手を合わせた。「来たよ」って。

 すると、私の頭の中で言葉が浮かんだ。



『忘れないで……』



 なぜか頭の中でその言葉が浮かんだ、これは友達のメッセージなのかな? 火事で死んだことよりも「忘れられる」ことが嫌だったのか……。


 ―ごめんなさい。私、苦しくて、受け止められなくて、友だちやそのお母さんのことを考えるだけで、悲しくて、逃げていた。弱い私でごめんなさい。


 私はお墓の前で謝った。でもわかっている。彼女は優しい子、怒ってなんかいないんだ。ただ、忘れてほしくなかっただけなんだね。



 それから、毎年必ず、お盆にお墓参りをしている。


 あれから一度も友だちは夢に現れていない。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る