第2話 中学時代の記憶
高校に入ってから気がついた、火事以降、中学校時代の記憶があまりなし。部活していたけど、思い出そうとしてもぼんやり靄がかかったよう。衝撃的なことがあったので、それしか思い出せない。
その原因のひとつが、自分の母が心臓病で倒れたからだ。
友だちが亡くなる → 次の年の冬、私の母が倒れる → 入院 → 退院 → 母が倒れる → 入院 → 退院 → 入院 → 手術 → 退院
……と、これを中三の夏休みまで続いたので多分忙しかったからなんだけど、私の母が入退院をくり返している間に、再び悲劇があった。
中二の冬、私の母が倒れた後の一ケ月後の話。
(友だちが亡くなって一年後)
亡くなった友だちの母がガソリンを被った。
……亡くなったそうです。
色々聞いた壮絶な最期は書けません。当時14歳だった私の理解が、感情が、キャパオーバー。もう無理、ただもう泣く。友だちのお母さんも小さい頃から知っているし、友だちが亡くなってからも時々、スーパーで見かけて会うし、静かで、細くて、優しくて、友だちとよく似た雰囲気の人。
多分、私はそのお母さんと話すことでぽっかり空いた心の穴を埋めようとしていたのかもしれない。友だちのかわりに私の成長を見守ってくれるのだと信じていた。
そして感情が追いつかないまま、検査入院の母のお見舞いに行くと、母は言う。
「本当はね、いくら辛く悲しいことがあったとしても死んではいけないの。だってお墓はどうするの? 誰がお世話するの? 法事もあったのに、そうしなかったのは、夫婦が上手くいってなかったってことなのよ……」
それはどういうことだろうと思った。
ふと、断片的に思い出した。いつだったか友だちのお母さんと偶然会い、スーパーで立ち話をした時のこと、そのお父さんの話題になった時
「あの人(夫)は外づらはいいけど家では……」
優しい顔が夫の話になると顔を歪めた。子供の私にはそれ以上は言わなかった。うちは家族が仲良かったし、DVの単語も浸透していない頃で、私はピンとこなかった。しかも田んぼの中の一軒家、何かあったとしても家の様子はわからない、声も届かない。でも子どもに手をあげてるように思えなかった。例えば姉に手をあげようものならパニックだろう、友だちはいい子だったし、わからないけれど。
あとで聞いた話、友達のお父さんは友だちの母とは再婚だったそうです。
一度目の結婚は酔うとお嫁さんに手をあげるから離婚した(村人の噂話)
二度目が友だちの母だった。
友だちの母が自死する一ケ月前、偶然会った。近所の田んぼのあぜ道、私は退院した母と散歩をしていた。日も暮れた黄昏時、友だちの母は最初、空を見ていたと思う、顔がよく見えない。めずらしく笑っているような、浮かれたような雰囲気だった。でもやっぱり顔は薄暗くて見えない。見えないんだよ……。
「あら、散歩ですか?」
私の母と立ち話をしていたが、心ここにあらずだった。あの時、もう心に決めていたのかもしれない。だけど、亡くなってから村の人は「そういえば、会った時、変だった」と言うけれど、私にはわからなかった。
そして友だちの母が亡くなってから、一年もたたず、そのお父さんは三度目の結婚をして、子どもが生まれたと聞いた。
……そうか、と思った。
友だちの母は、孤独だったのか。
この世に未練がないほど……。
その時は、まだ子どもだったから、どれほど孤独なのか本当の意味で、解っていなかった。友だちのお母さんは子供を失った悲しみを分かち合う唯一の夫に背を向けられ、どんな気持ちだったのかな。
私は友だちのことを思い出すと同時に彼女の母も思い出す。辛すぎて涙しかでない。だからいつの間にか心に蓋をした。考えないようにした。そうして彼女と遊んだ小学校時代の思い出も消え去ってしまった。
今思い出そうとしても、中学校時代の記憶があまりない。
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