【実録】性との邂逅

私の味方。

第1話 焦燥感

俺はなろうが嫌いだ。


キ◯トもス◯ルもカ◯マもシ◯も結局は顔だ。

かっこよくて、なんだかんだコミュ力もあって、

みんな男気があっていざという時には頼りになる。

そんなヒロインはみんな主人公にメロメロ。


こんな世界現実にはどこにもない。

現実主義な俺はそんなファンタジーを辟易していた。


俺の名前は雅也。

23歳社会人1年目、新卒で4月に入社してからもう半年が経つ。これまでの人生、女っ気が全くない人生だった。

ちなみにこれまで最も女の子と接近したイベントは高校3年時の体育祭のフォークダンスで手を繋いで踊ったときだった。(学年行事なので強制イベントのようなものだが…)


いつか彼女ができる日が来るだろうと心のどこかでは思っていたがそんな日が訪れる気配は未だ無い。


俺はブサイク、チビ、メガネ、癖っ毛など

あらゆる劣等属性をコンプリートしていた。

劣等属性の称号の多さは毎年クラスで1、2を争うレベルだったと思う。

学生時代、席替えの度にイケイケの男子や女子の近くの席にならないことを祈っていたのを今でも思い出す。


なんとか滑り込めた公立の大学を卒業して一般企業に入社。社会人になったら何か変わるかと思ったけどそんなことは当然ない。

自堕落生活を送っていた大学時代に戻りたいと思う日々。なんとか働きながら、うだつの上がらない変わり映えのない生活を続けていた。


-12月末〜1月初旬-


俺は実家から離れた会社に就職したため年末年始は実家に帰り、久々の実家を満喫していた。

俺には4歳年下の弟がいるがヤツも他県から帰ってきていた。弟の名前はタケシ。

志望大学に受からず、予備校面談の1時間前に補欠合格で国立大学から繰り上げ合格の連絡が来た悪運の強い男である。


友達もほとんどいない俺だが弟とは結構仲が良く、一緒にゲームしたり漫画の貸し借りをしたりなど我ながら良くやってると思う。

(趣味が合うのが幸いした)


漫画やアニメではよくサ◯ケとイ◯チやム◯ちゃんとヒ◯トのような対照的な兄弟が描かれることがあるが、我が家に関して言えばそんなことはない。

俺が長細いドングリで弟が丸いドングリ程度の瑣末な違いしかない。

身長はチビの俺よりも小さく、歯の本数がワニワニパニックくらいしか無い上に髭が濃い。

兄弟どちらも太っていないのがせめてもの救いと言ったところか。


もし弟だけが、容姿端麗で運動神経抜群のデキル奴だったなら、俺は嫉妬でトチ狂っていただろう。


タケシが俺のことをどう思っているかは知らないが、俺からすれば俺たちはドングリ同盟で孤独を分かち合う戦友のような間柄だと思っていた。


たが、帰省していたある日我が家に激震が走った。


なんとタケシに彼女ができたというのだ。

クリスマスを一緒に過ごして、その流れで告白したのだという。


俺の生き写しみたいなやつがよくもアニメみたいな真似してくれたなと心の底から思った。

妄想の王道シチュエーションを現実で起こしやがったのだ。

俺たちのドングリ同盟がこの日を以て失効したことは言うまでもない。


しかもよくよく話を聞いてみると彼女の方が最初から一目惚れしていたそうだ。

「漫画かよ」「アニメかよ」俺はそう言わずにはいられなかった。

プレゼント交換したりお菓子を作ってもらったり俺の夢を一夜にして叶えていたことまで判明した。


さらに俺をどん底に突き落としたのは彼女がかなり可愛かったことだった。

いくら彼女ができたといっても可愛く無ければ意味がない。俺はブサイクだが理想だけは人一倍高かった。タケシの彼女はその基準を上回っていた。


俺は気が狂いそうだった。


タケシのスマホで彼女の顔を拝んだ後、俺は

「せっかくできた彼女、大事にしなよ」的なことを言い残し自室に戻った。


驚愕の事実を整理することにいっぱいいっぱいで

気の利いた言葉は出なかったのを今でも覚えている。


タケシを祝福したい俺と嫉妬で今にも気が狂いそうな俺が心の中でせめぎ合いをしているような気がしたが気のせいだった。


俺は最低だった。


ただ羨ましく妬ましかった。焦っていた。眠れなかった。悔しかった。敗北した。屈辱だった。振られたらいいのに。


負の感情で俺の体は嫌な熱を帯び、生気のない目は焦点を失っていた。



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