アリアリーシャの作る焼き鳥  パワードスーツ ガイファント外伝 〜食事用の焼き鳥は、誤解も生むし、イメージにも影響が出ます。〜 KAC 20226

逢明日いずな

第1話 旅の途中 〜今日の食事は、焼き鳥です〜


 ジューネスティーン達は、ギルドの依頼で、南の王国から、大ツ・バール帝国に向かっていた。


 そんな中、ルイネレーヌの情報から、東街道の途中に出た、東の森の魔物を倒した。


 これは、世界で初めての快挙だった。


 帝国と隣接している東の森は、帝国の持つ魔道具によって、追い返す事が可能となったことで、ツ・バール国として建国し、前皇帝の時代に国名が改名された。


 大ツ・バール帝国が、建国されて、364年になるが、東の森の魔物を倒したという記録が無い。


 それをジューネスティーンのパワードスーツを中心としたパーティー戦で対応することで、初めて倒す事ができたのだ。


 その戦闘の事後処理を行なっていた時、カミュルイアンが、自分達の矢で動けなくなった鷹を抱いて帰ってきた。


 治療を施した後、そのまま、逃げるだろうと思っていた、その鳥が、カミュルイアンの肩に乗るほどに懐いてしまった。


 懐いているのならということで、ジューネスティーンは、同行しても構わない事にした。




 ジューネスティーン達の移動は、馬車を使っているが、馬の代わりに地竜を使っていた。


 地竜は、馬より長距離を走らせるのに有利と言われている。


 哺乳類の馬と爬虫類の地竜では、飼馬の量も大きく違う。


 瞬間的な速度では、馬に敵わない地竜なのだが、長距離移動では、速度的にも飼馬的にも、地竜が有利となる。




 ジューネスティーン達の馬車は、東街道を、大ツ・バール帝国に向かって走っている。


 御者台には、ジューネスティーンが手綱を握って、その隣にシュレイノリアが座っていた。


 残りの4人は、馬車の中におり、アンジュリーンが、窓から外を眺めていた。


「ねえ、カミュー。 あの時の鳥だけど、最近、周りを飛んでいないわね」


 女性エルフのアンジュリーンが、馬車の外を見つつ、男性エルフのカミュルイアンに聞いた。


 2人は、よく似ており、どちらも中性的な少年少女の終わりのような顔立ちをしている。


「もう、カミューのこと、飽きたんじゃなの」


 その言葉に、ヒョウの亜人のレィオーンパードが乗り、カミュルイアンは、ムッとした表情をする。


 アンジュリーンは、気にしただけだが、レィオーンパードは見た目だけは、同年齢程度にしか見えないので、気が合うのか、常にカミュルイアンと連んでいた。


 そして、少し臆病な性格のカミュルイアンを、レィオーンパードは、いつものように、からかったのだ。


「ふん。 そのうち、顔を出すよ。 きっと、餌を見つけにいったんだよ」


「へー、いつもお前と一緒に食べてたのに、今日は、餌を探しに行ったのかよ」


「……。 分かんないよ」


 カミュルイアンは、ムッとした様子で、顔を背けると、レィオーンパードは、それが面白かったのかクスクスと笑った。


「ダメよ、レオン。 カミューを、からかっちゃ、かわいそうよ」


 アンジュリーンが、レィオーンパードに注意を促した。


「アンジュもぉ、顔がぁ、笑っていたらぁ、カミューがぁ、可愛そうですぅ」


 アンジュリーンは、笑いながら、レィオーンパードに注意していたので、ウサギの亜人であるアリアリーシャが、それを諌めた。


「アンジュもぉ、レオンもぉ、カミューを、からかいすぎですぅ」


 すると、馬車が止まると御者台の方から話しかけられた。


「この辺りで、そろそろ、食糧調達をしようと思うんだ。 帝国も近いから、グループに分かれて行動しよう。 ……。 ん? 姉さん、何か、あったの? 」


「大した事じゃ、ないですぅ。 また、いつものぉ、ことですぅ」


 アリアリーシャ以外の表情を見て、また、カミュルイアンが、イジられていたのだろうと思ったようだ。


「じゃあ、男子が、狩に出るから、姉さんが、馬車を見ながら、食事の用意をしておいてくれないか」


「わかりましたぁ」


 そう言うと、6人は、馬車の外に出る。




 御者台に居たシュレイノリアは、地竜の世話を始めると、アリアリーシャとアンジュリーンが、かまどの用意を始めた。


 ただ、アリアリーシャが中心に、アンジュリーンは、アリアリーシャに言われた通りの作業を行っていた。


「じゃあ、俺たちは、何か食べられそうなものを探してくるよ」


 ジューネスティーンは、男子2人を連れて、馬車から離れていった。




 1時間ほどすると、ジューネスティーン達3人は戻ってきた。


 かまどには、アリアリーシャが、1人だけ、アンジュリーンとシュレイノリアは、地竜の方で、話をしていたので、ジューネスティーン達は、かまどに近寄った。


「すまない。 何も捕まえらなかった」


 狩が不発に終わったことを詫びると、アリアリーシャは、かまどで肉を炙りつつ答える。


「そうでしたかぁ。 でもぉ、アンジュがぁ、しとめてくれたのでぇ、今、調理中ですぅ」


「ああ、そうなのか。 ……。 アンジュ、ありがとう」


 ジューネスティーンは、向こうで、地竜と戯れているアンジュリーンにお礼を言った。




 すると、カミュルイアンが、別の方向を示した。


「ねえ、ジュネス、あれ」


 そこには、むしられた鳥の羽が落ちていた。


「ああ、あれはぁ、さっきぃ、近くにいた鳥をぉ、アンジュが仕留めてくれたのよぉ。 だからぁ、今日は、鳥の肉が食べられるわ。 新鮮だから、塩で焼いていたのよぉ」


 ジューネスティーンは、微妙な表情を浮かべるのだが、カミュルイアンは、暗い表情をしていた。


「アンジュがぁ、矢でぇ、仕留めてくれたのよぉ。 それもぉ、一発でぇ」


「な、なんで、鳥なんだよ」


 カミュルイアンが、低い声で、言葉を遮った。


「鳥が、可哀想じゃないか」


 アリアリーシャは、不思議そうにカミュルイアンを見る。


「でもぉ、鳥はぁ、美味しいわよぉ」


 その一言を聞くと、カミュルイアンは、震えていた。


「何でなんだよ。 あんなに懐いてくれてたのに、何でなんだよ」


 アリアリーシャは、訳がわからなそうにする。


「何で、そんな簡単に鳥を食べれるんだよぉ」


「カミューもぉ、狩に行ったでしょぉ。 肉を食べるためにぃ、狩をするのよぉ。 だったらぁ、豚でも鳥でもぉ、いただいた命はぁ、大事に食べるのよぉ」


「だからと言って、鳥を食べるなんて! あんなに、懐いていたのに」


「カミュー、何を言っているの? 」


 地竜と戯れていたアンジュリーンが戻ってきて、話に入ってきた。


「その鳥は、地を走る鳥よ。 虫や草を食べる鳥なのよ」


「えっ! 」


 カミュルイアンは、あっけに取られたような表情をする。


「地面の穴から出てきて、餌を啄んでいたのを、私が弓で仕留めたのよ」


「そうですぅ。 猛禽類のような肉食なんてぇ、食べないわよ。 肉はぁ、草食系の方が、美味しいでしょ」


 ジューネスティーンとレィオーンパードは、アリアリーシャを見て、微妙な表情を浮かべている。


「姉さんに、肉を食べる話をされると、微妙な気がする。 ねえ、にいちゃんは、どう思う」


「うーん」


 2人は、ウサギの亜人が、肉を食べる話をしているので、微妙な表情を浮かべていた。


 アリアリーシャのウサ耳を見ると、人参のスティックをかじるところを思い浮かべてしまうのだが、そのウサ耳で、焼いた鳥の肉を食べるところを想像して微妙な表情を浮かべてしまったのだ。


「何だか、レオンとジュネスは、私に、何か変な印象を持っているみたいです」


 アリアリーシャが、ジト目で2人を見た。


 2人は、心の中を見透かされたような表情で、慌てて首を振る。


「ふん。 どうせ、私の見た目だと、肉にむしゃぶりつく様子が想像できないとでも思ったのでしょ」


 不貞腐れたような表情を浮かべつつ、かまどの肉を動かしていたのだが、そのウサ耳が、ピクピクと動いていた。


「なあ、レオン。 お前だって、野菜は食べるだろ。 姉さんだって、肉も食べるよ。 あれは、レオンが、野菜を食べているのと一緒だ」


「そうだね。 亜人もバランスの良い食生活が必要だって、保健室の先生に言われた事がある。 肉だけ食べちゃダメって言われた。 じゃあ、アリーシャ姉さんの肉を食べるのも有りだね」


 レィオーンパードは、アリアリーシャのウサ耳で、串に刺さった肉を頬張る様子を想像しつつ、しかし、自分自身が、ヒョウの亜人であり、そのイメージとしたら、生肉を頬張るイメージなのかと考えると、自分が、野菜を食べるイメージを考えたら、それもアリなのかと思ったようだ。


「今の話は、亜人に対する偏見だ。 動物から進化した段階で、食べるものは、人も亜人もエルフも一緒だ。 何もかも、体を維持するエネルギーだ」


 黙っていたシュレイノリアが、口を挟んだ。


「お前達は、自分達のイメージを、押し付けるな」


「「はーい」」


 ジューネスティーンとレィオーンパードは、反省した表情で答えた。


「それじゃぁ、2人ともぉ、手伝ってくださいぃ」


 話が、まとまったと思ったアリアリーシャは、2人に肉を串に刺すようにと、トレーを指し示した。


 そこには、肉と、付け合わせの野菜、そして串が脇に置いてあった。


 2人は、トレーの前に座って、串に肉や野菜を刺し始めた。


「ねえ、カミュー。 あんたも、手伝うの。 自分が食べるものなのよ」


 カミュルイアンは、呆然としていた。


「ねえ、カミュー。 あれは? 」


 アンジュリーンが、カミュルイアンに声をかけると、南の空を指差した。


 そこには、2羽の鳥が、輪を描くように飛んでいた。


「ねえ、あの2羽は、何だか、お互いに合わせるように飛んでいるようだわ」


「あ、手前の鳥……」


 カミュルイアンが、その鳥を見て、徐々に笑顔になり出した。


「そうだね。 オイラも串に刺すのを手伝うよ」


 そのカミュルイアンの表情には、何か、吹っ切れたようだった。


「カミュー、あれ、この前の鳥じゃないの? あれ仲が良さそうよね」


「うん。 手前で回っていたのが、きっとそうだ」


「好きな子を見つけたみたいね」


「うん。 きっとそうだと思う」


「ちょっと、羨ましいかな」


「うん。 そうだね」


 顔形の似た男女のエルフは、仄々とした様子で話をしつつ、串に鳥の肉を刺していった。

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