焼き鳥屋の息子、文化祭で焼き鳥を売ることになったが......

世良 悠

第1話

 今日は高校の文化祭。

 三年生は校内で屋台を出すことになっており、内のクラスは焼き鳥屋ということになっている。実家が焼き鳥屋ということもあって俺はクラスの焼き係として期待されていた。



「......あの委員長?」

「どうかした?」


 俺の困り顔をみて委員長はにへらと笑った。


 クーラーボックスの中をもう一度見て俺は思わずため息が零れていた。


 イカ、ゆで卵、野菜、マシュマロ、そして隅っこに少しばかりのお肉プラスエトセトラ。


 俺である必要ないじゃん!  


 そんな心の叫びとは裏腹に始まった文化祭。


 生徒とその親、他校の生徒で賑わいを見せる。

 太陽がさんさんと照りつけるなか、俺は委員長と肩を並べて作業をしていた。


「熱い! 熱すぎ!」


 俺の仕事は当然火番。

 めらめらと熱気を放つ炭を前に汗が止まらない。


 本業のお肉を焼く機会なんてほとんどない。

 なにせ店の名前が『焼き屋』なんだもん。どうやら他クラスと焼き鳥屋が被ってしまったようで。俺達のクラスは焼き鳥争奪ジャンケンに敗れたそうな。


「誠君! 次イカマシュマロソーセージ入ったよ!」

「どんな組み合わせだよ!」


 それ本当においしいのか、という疑問は心の中に留めておく。とどめておけたか? 思わず暑さにやられて口から零れていないかが心配だ。家の手伝いの数倍キツイこのお店は果たしてお小遣いが貰えるのだろうか。そんな下らないことを考えながら時間は過ぎていった。



「これにて文化祭は終わります、生徒は片づけを始めてください」


 放送を聞いて俺はその場にへなへなと崩れ落ちる。

 Tシャツは汗で色が変色していて、もう動きたくない。


「お疲れ様」


 首元に冷たさを感じ振り返ると委員長が缶ジュースをもって立っていた。


「これ私のおごりだよ」

「あぁありがとう」


 プシュッといい音が鳴って、泡が軽く溢れた。

 熱々の体に冷えたジュースが染みわたっていく。


 それは委員長も同じようで、勢いよく喉を鳴らし、「ぷはー」とおっさんの様に声を上げる。


「委員長おっさんくさいよ」

「んなっ失礼な。JKに対してなんてことを言うんだ」

「ははは、ごめんて」


 流れる人々の波をぼんやりと見つめていると委員長がふとこんなことを言い出した。


「でも、あれだね。こんなに冷えたビールがあるならおつまみが欲しいよね」

「え、それビールなの?」

「おつまみが欲しいよね」

「え、」

「おつまみが欲しいよね」

「あはい」


 有無を言わさぬ物言いに首を縦に振った。


「そういうと思って用意したよ。さあ受け取るがいい」


 そういって出してきたのは、今日の残りを全部串に刺したものだった。



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焼き鳥屋の息子、文化祭で焼き鳥を売ることになったが...... 世良 悠 @syuumatudaidai92

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