幸せのナンバー「11-88」

柴田 恭太朗

1話完結 ナンバーに思いを込めて

「新車買ったんだって?」

「おうワンボックスな、家族が増えるから」


「同期のお前が一番乗りでパパとはなァ。クルマのナンバーも11-88いいパパだったりするんだろ?」

「ふざけんなよ、ちげーよ」


「じゃあ11-88いい母か」

「それ同じ! 読み方違うだけで数字は同じ!」


「そこはダブルミーニングってヤツよ、11-88いちいちはちはちならパパもママもニッコリってね」

「ついでにばばもニッコリ」


11-88いいばばってか? 婆は運転しないで、早く免許返納しなされ。パパママババで三方一両損」

「損してどうする」


「三権分立、三顧の礼、三歩下がって二歩下がる。ヒック」

「お前酔いすぎ、いまタクシー呼ぶから待ってろ。おーいタクシー!」


「三十六計逃げる錦織にしこり、三度の飯より酒が好き」

「はいはい」


「三人寄ればポン酢のタレって、あーっ! ほらほらお前呼んじゃったぞ、見ろ11-88だ」

「危ない、道路に出たら危ないって。へえ、11-88ナンバーのタクシーなんてあるんだな。初めて見た」


「お先にどうぞ~、いい婆様が待ってるぜ」

「年寄りと決めつけんな。お前が乗れよ。酔っぱらってるんだから」


「11-88は、いいパパに譲りますゥ」

「あ、はい。運転手さんスミマセン。私乗ります、すぐ乗ります。ほらお前がグズグズするから怒られた」


 ◇


「酔っ払いは後始末が大変でね、乗せたのがお客さんの方で良かったよ」

「お待たせしてスイマセン。このタクシーのナンバー見て喜んじゃって」


11-88いちいちはちはちがどうかしたかい?」

「いいばば……いや何でもないです」


「いま、ドライバーがこんな婆さんで驚いてるだろ」

「いえ、かくしゃくとしてご立派だな、と」


「いま、免許返納した方がいいと思ったろ」

「いえ、ハンドルさばきが鮮やかだなぁ、と」


「あたしゃ人間でいえば十八。こう見えても今年成人式を済ませたばかりの乙女だよ」

「そ、そうなんですね」


「いま、そうは見えないし、頭おかしいと思ったろ」

「とんでもない。あれ、なんか変な汗がでてきた」


「いま、アクセルもブレーキも踏んでないのになぜ車が動いてるんだと思ったろ」

「思ってませんって、勘弁してくださいよォ。後部座席からは足元が見えないし。それにおばあさん、さっき人間でいえばって言いましたよね。おばあさんホントは幾つ?」


「十万八十八歳。まだ小娘だよ」

「ええと小娘はともかく、いま何歳って?」


「だから十万八十八歳」

「十万……」


「八十八歳。ゲハハハハハ、おまえも蝋燭ロウソク人形に(以下略)」


 おしまい

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幸せのナンバー「11-88」 柴田 恭太朗 @sofia_2020

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