情報伝達のミスで生まれた怪物

荒川馳夫

誤りだらけの伝言ゲーム

「見たんだよ。本当だ」


「オレは別の場所ですげえヤツを見たぞ!」


「ボクもこんなうわさを聞いたことがある……」


三人の男が各々で勝手に主張をしていた。

時代ははるか昔。同じ村で育った男たちがめったに聞かない情報を披露しようとやっきになっていた。


「ワタシは村の近くで、夜に見たんだ。手足の異様に長い生き物を」


真面目そうな男が、最初に貴重な光景を発表した。


「ふん、なんだよそれ。オレは隣の村で大きな翼をもつ怪鳥が上空で羽ばたいてるのを目撃したぞ。すげえだろ!」


自己主張の激しそうな男は、自分が見た光景こそ一番だと言いたそうだ。


「へえ、それは確かにすごいね。でも、ボクは近くの都市に住む知人から火を吹く動物がいるってウワサを聞いたんだ……。ボクの話が最も面白いと思う……」


最後に気の弱そうな男が、遠慮がちに話し終えた。



「なるほど、それぞれの話は興味をそそられるものばかりだな。そして、その生物は周辺で目撃されている。もしかして、ワタシたちが見た生物は同じ個体だったのではないか?」


真面目そうな男が主導して、三人で未知の生物について議論が交わされた。忘れることがないように、壁に絵を描いておいた。

三人がどのような結論に至ったのかは現代に伝わっていない。だが、描いた絵は彼らの死後も残り続けた。



 数百年が経った。別の地域から人々が訪れた。かつて村があった場所はすでに廃墟となっていた。しかし、男たちの描いた絵は奇跡的に原型をとどめていた。訪れた人々はその絵を見て、こうつぶやいた。


「このような生物は見たことがない。もしや、近隣の地域を破壊したのはこの絵に描かれた怪物なのか。ああ、恐ろしい!」


「怪物はどこにいるのでしょう?こんなヤツが近くにいるなんて……。町をつくるのは中止したほうがよろしいのでは?」


「いや、ここに町を建設しよう。ただし、襲撃された場合にそなえて、この怪物の絵を至るところに書き記しておくんだ。怪物に似た生物を見たら、町長に伝えるよう掟をつくることにしよう」


こうして、新たな町の至るところに怪物の絵が描かれた。

やがて、町は大きな交易がおこなわれる場所に変化していった。



 交易が活発になるにつれ、異国の人々も町を訪れるようになった。そして、町に描かれた怪物の絵も多数の地域へと伝わっていった。

ただし、オリジナルのままではなく、地域ごとに異なる特徴をもった怪物に置き換わることになる。知らぬ間に怪物性は増していった。



何百もの世代を経た現代。その怪物は時を超えて活躍している。

ファンタジーが好きな方ならば、一度は見たことがあるでしょう。

巨大な翼をもち、口からは炎を吐き、獰猛な手足を備えたドラゴンという怪物はこのような経緯で創り出されたのかもしれません……。







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情報伝達のミスで生まれた怪物 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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