第43話 最終話

「……にしてもなんであのタイミングで体の入れ替わりがもどったんだ?」


 ロイがフローラをお姫様抱っこしながら、不思議そうに言う。

 これ見よがしに王城から歩いて去っているためまだ抱っこしたままだ。

 確かに秘術のため情報が少ないがなぜあのタイミングで勝手に体が入れ替わったのかさっぱりわからない。


「……いつからお戻りに?」


 いまだに事情の読めないセルクが尋ねる。

 計画ではロイが宣戦布告して、戦争法通り門から退出するのは聞いていた。

 だがいきなり本当の体に戻ったロイが現れレクシスとエルティルまで引き連れてくるのはまったくの予想外だった。

 そこではじめてロイとフローラの体が入れ替わっている事に気づいたのだ。


「婚約破棄ってセリフはなんとなく聞こえた気がするからあそこらへんあたりか?」


 と、ロイも首をかしげる。

 婚約破棄をつきつけられて、おっしゃぁぁぁ戦線布告だぁぁと、勢い込んでいたらなぜか元の体に戻りアレスと抱き合っていた。

 意味がわからず、慌ててレクシスに事情を話して、まだ城に残って紅茶を無視して一人でミルクを飲んでいたエルティルに頼んでワープしてきたのだ。


「え!? じゃあデナウに宣戦布告したのは……?」


 セルクが思わず抱っこされているフローラを見る。


「もちろんフローラだ!

 すごいぞ事情を説明していないのにあの短時間で最適解をだすなんてさすが俺の嫁!!」


 そう言ってなぜかロイが胸を張る。


「いやぁ。確かにあの状況でとっさに対応できたのは凄いですね」


 とエルティルも追随した。


 フローラは照れたように、「そ、そんなことはないです」とうつむいた。


「ロイ様、すでにこちらは戦争の準備はできています。

 今回はフローラ様に無実の罪をきせ殺そうとしたなどの罪状から聖王国も黒の塔も、出兵時期の変更を認めるでしょう。一か月以内には開戦できるかと」


 レクシスが隣を歩きながら言う。


「そうですね。許さないというのなら私も圧力をかけましょう。

 まぁ、聖王国もエミールの存在自体を消したいようですから、この国の人間として処理するそうです」


 今度はエルティル。


 聖王国は魔族に騙され龍脈を不正していた巫女がいたという聖王国の恥を隠しつつ、それでもエミール自身は厳罰にするために、デナウの婚約者という立場でエミールを処理する方針を固めた。

 聖王国側としてもはやくデナウ達がエミールとともに滅ぼされてほしいため邪魔をしてはこない。

 むしろ陰でこっそりファルバード家を助ける方向で動くだろう。


「黒の塔も再三の忠告をことごとく無視されて頭にきていますから、早期開戦は通るでしょう。

 こちらはプライドを傷つけられるのを極端に嫌いますから」とセルクも肩をすくめた。


「これもみなフローラ、君のおかげだ! よく頑張ったな。怖い思いをさせて悪かった」


 そう言ってロイがフローラに微笑むと、フローラは耳たぶまで顔を赤くする。


 今までは体が自分の身体だったから、ロイを今一つ異性として意識をしていなかったけれど、体が戻ったため、ロイが男性であると改めて意識してしまったのだ。


「い、いいい、いえそんなことないですっ!!殿下がいろいろ用意してくださったから全然怖くなかったです!! そ、それよりいつまでこのままで!?」


 お姫様抱っこ状態がおちつかなくて、フローラはあわあわとしてしまう。


「門の前に馬車を用意してありますので、それまで我慢していただけると。

 宣戦布告して門をでるまでが儀式ですから」


 そう言ってレクシスが笑う。


「わ、私も歩けます」


 ロイの腕の中というのが恥ずかしくてフローラが主張するが。


「内外に俺の嫁と宣言する必要がある! このままでいい!」


 と、ロイがえっへんと言う。

 部下の一人に加えるなら一緒に歩いた方が示しがつくのでは?とフローラが言おうとしてあることに気づき顔が赤くなる。


「もしかして嫁……って本当の結婚相手の嫁という事ですか?」


「おう!もちろん!これからこの国の腐敗をただし、経済をたてなおさなきゃならない。

 それにまだ腐敗した国はたくさんある。これからがはじまりだ。ついてきてくれるかフローラ」


 そう言ってロイがにかっと笑う。


「……え?」


「……ん?」


 嫁って部下という意味ではなく、そういった意味だった?

 え? え? え?


 顔を真っ赤にして固まってしまったフローラをロイは真剣な目で見つめると。


「好きだ。愛してるフローラ」


 と、愛をささやいた。


「……!????」


 その言葉にフローラは顔を真っ赤にしたあと――なぜか気をうしなう。


「え?え?フローラ。なんで気を失うんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ロイの絶叫があたりに響くのだった。










 こうして物語は終わりを告げる。

 これは気弱令嬢と隣国王子が入れ替わり、隣国王子に守られながら気弱令嬢が強く成長する物語――。



END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

婚約破棄ですか?はい喜んで!~それでは次は戦場でお会いいたしましょう♡~ てんてんどんどん @tentendondon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ