おいくつですか?

星ぶどう

第1話

 突然ですが、あなたの祖父母、もしくは曽祖父母はおいくつですか?90歳くらい?もしかすると100歳を超えている方もいらっしゃるかもしれません。お元気ですね。しかし数十年前にその人がどれくらい長生きかどうかわからない時期がありました。どう言う事かと言いますと、世界の掟で年齢を数えるのは87歳までで88歳以降は数えなくなったのです。そんなバカな。だって今は普通に100歳とか言っているではないかとお思いになったでしょう。それもそのはずです。だってその出来事は1年間しかなかったのですから。なぜそうなったのか教えてあげましょう。

 この世界は神が生み出したとされている。神が宇宙を作り、星を作り、そして命を作った。植物や動物や虫、数億年経ってから人間も作った。それぞれの生き物の寿命も神が大雑把に定めた。今も神は空からこの世界を見守っている。

 ここは天界。空の上の神様がいる世界だ。天界での生活は人間と似ている。子どもは学校があるし、入試もある。普通に就活だってする。学校で習う勉強内容もほぼ人間の子どもが習う内容と似ている。そりゃそうか。だって言語や数式だって実は天界で作られたものなのだから。え?でも人間が自分たちで数式を作ったり、研究で新たな発見をしているじゃあないかって。まあその通りっちゃその通りだ。実際人間の努力で人間たちは発達してきた。だが実は天界で作られたものをランダムで人間の頭にテレパシーで伝え、その瞬間に人間たちはピーンとひらめいてまるで自分たちが思いついたように演出していたのさ。だから今有名になっている数学者や科学者は自分たちのひらめきで公式などを生み出したつもりだろうが、ただランダムでたまたま当たった超ラッキーな人に過ぎないのだ。俺たち神に感謝しろ。イキっている人間どもめ。

 まあそういうわけでまたいつもの天界の日常がやってきた。

 ここは天界の小学校。ラキのクラスでは算数の授業をしていた。ラキは小学校の近くに住んでいる小学生だ。ラキの父親は天界の役所で全人間の年齢の記録やいつ死ぬことにするかを決める大事な仕事をしている。

 ラキはその日数字の桁について勉強した。ちなみにだが数字を作ったのも天界の神たちだ。ラキはとても熱心に授業を聞いていた。

 キーンコーン、カーンコーン。

 今日1日の学校が終わった。ラキは友達のノアと一緒に帰った。下校中、ラキは算数の授業の興奮がまだ冷めない様子だった。

 「なあ数字って面白いよな。あんなに0が増えるなんてさ。無限なんて♾だぜ。びっくりだよな。もっと数字のこと知りたいな。」

 「そうだね。」

 歩いている時にラキはふと思った。

 「そうだ。俺の父ちゃんが人間の年齢を記録する仕事してるからさ、職場に行って色々な数字見ようぜ。」

 「え、勝手に行っていいの?」

 「平気平気、行こうぜ。」

 ラキたちは役所に行き、受付の人と話して中を見学させてもらう事を許された。中に入るとたくさんの書物が並んでいた。どれも人間の本だった。それぞれ名前が書いており、本を開くとその人間の生涯が見れた。

 「なあ、もっと奥に行こうぜ。」

 ラキはそう言い、ノアを連れてさらに先に行った。立ち入り禁止ゾーンなのにも関わらず、ラキは堂々と中に入り込んだ。

 「ねえ、ほんとに大丈夫なの?」ノアは心配していた。

 奥には何やら大きな時計のようなものがあった。よく見ると画面がたくさんあり、数字がたくさん並んでいた。この機械は人間の寿命を決める大切な機械だ。勝手にいじってはいけない。

 ラキはその機械をいじってみた。

 「勝手に触っちゃダメだよ。」

 「平気平気、おお色々な数字がある。」

 ラキはたくさんの数字を見た。50と書かれたものから3桁の数字まである。それぞれが人間の生きられる人生の長さだ。この数字を変えてしまうと地上の人間にも影響が出てしまう。ラキは数字を見ているうちにある事を発見した。

 「見ろよ、88っていう数字があるぜ。」

 どうやらこの人は88歳まで生きられるらしい。

 「うん、それが?」ノアは不思議そうに答えた。

 「88をさ、横にするとさ…」

 ラキは画面を操作し、88の数字を横にした。

 この画面は地上でいうとタブレットのようになっていて、それのお絵かき機能のようなもので数字を表示している。なので違うことを書き加えたり、向きや大きさも自由に変えることができる。

 横になった88という数字を見てラキは言った。

 「見ろよ。♾が2つ並んだぜ。8を横に倒すと♾になるんだな。」

 「へーすごいね!気づかなかった。」

 ノアもびっくりしていた。

 「俺、無限好きなんだよ。終わりがなくて永遠が続く感じでさ。ロマンあるよな、無限。もういっそこの人無限歳にしようっと。」

 ラキは88が横になったまま決定ボタンを押してしまった。するとどうだろう。88歳が無限になったせいでそれより上の年齢も無限歳になってしまった。つまり88歳以上の寿命が全部無限の表記になったのだ。本来の寿命の数字もわからなくなり、なおかつ死が訪れなくなってしまう。これは一大事だ。

 ラキたちは怖くなり役所から逃げ出した。

 だがこの重大事件はすぐに発覚し、ラキは激しく怒られた。だが最近は医療の発達により寿命を長く設定していた人が多かったため、正しい寿命に再設定し直すのは大変だった。そこで地上で混乱が起きないように急いで急遽年齢の数え方を88歳以上は無限歳にしろという事を世界中の1番偉い人にテレパシーで伝え、一時期無限歳というのが生まれた。結局完全に復旧したのは1年後だった。

 というわけで地上では1年間だけ88歳以上の人は無限歳と呼ばれていたのだ。

 ここまで説明すると1人の生徒が手を挙げた。

 「じゃあ先生、天界でも無限歳って言われていたのですか?」

 「お、いい質問ですね。一応地上は神が作ったものではあるので、哀れな人間を可哀想に思うと同時に償いとして天界でも復旧までの1年間は88歳以上は無限歳と呼んでいました。今はすっかり元通りになりましたけどね。ちなみに先生は明日で米寿を迎えます。」


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