君が悪いんだ。ごめんね。
お題 彼と血痕
君が悪いんだよ。そう君が悪いんだ。私は悪くないよ。
私の右手に収まっている鋭利な刃物からはドス黒い血が滴っている。フローリングの床に血の池が出来てポタポタと雨粒みたいに落ちている。
君は微動だにしない。そりゃそうだ。私が刺したんだもん。
きっかけは些細なことだった。君がデートをすっぽかした。だから彼のスマホにこっそり仕込んでおいたGPSアプリを見てそこに行ったら、他の女と遊んでた。今日だけは見守り続けて明日問い詰めようと思っていたけど、途中である場所に入ったんだ。子供のころに憧れたキラキラしたお城。パパとママにいつか一緒に行こうねと言ったら、いつかねとこれ以上にない苦笑いをされたのを今でも鮮明に覚えている。
それで彼が家に帰ったあと私はホームセンターで刃物を買って彼の家に行って刺した。
ただそれだけのこと。私悪くないよね。だって私彼の事愛していたんだよ。ほんとに愛してた。でもね裏切られた。それがどれだけ辛いか君にはわからないよね。だって君しかいなかった。友達もいない、家族もどこかに行っちゃったし、もう君しかいなかったのに。それなのに。それなのに。君は私から居場所を奪ったんだ。
あの女もどうしてやろうかと思ったけど、もういいや。どうでもよくなっちゃった。
君の最期の言葉が耳から離れない。
「ごめんね」
刺されてもこんなこと言う君だ。クソだとか死ねだとかせめて罵ってほしかった。なんでよ。なんで君はそんなにも優しいんだよ。
両目から涙が溢れて嗚咽が止まらない。
ああ。これしかなかったのかな。もっと話せばよかったかな。なんで冷静になれなかったのかな。なんで優しくできなかったのかな。
「ごめんね。ごめんね。こんな彼女でごめんね」
動くはずもない血まみれの優しい彼に謝り続ける。
ああ。私もそっちに行こう。もういいや。
「愛してるよ」
そう言って私は右手を自分の首に思いっきり振り切った。
15分で書く即興小説 @Alansan
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