開拓村の年長者ランキング ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~

海原くらら

開拓村に新設された木材加工場の前にて。

 よーし、こいつが最後の丸太ですね。

 枝がまだ残ってるなぁ。

 ま、これはこれで持ちやすいか。


 そっち側は? 準備完了?

 それじゃ押しますよー。

 ゆっくりね。ゆーっくり。


 お、かたむいてきた。

 このままで問題ない?

 はいはい。それじゃこのまま押して落としますよー。


 よし落ちた。

 おお、ちょうどソリの上に収まったね。

 あとは大丈夫そうですか? 縄で固定すればこのまま運んでいける? ならよかった。


 いやー、きつかったですよ。

 皆さんは材木の持ち運びを毎日やってるんでしょ? すごいですねー。

 あら、毎日じゃない? それでもねぇ。


 自分にはとても無理ですわー。

 これなら魔獣と戦ってるほうがまだマシです。

 いやホントに。


 あぁ、隊長ー。荷馬車に積まれた倒木、すべて降ろし終わりましたー。

 倒木の木材加工場内への運搬は、製材担当者たちにて実施します。

 自分たちは予定通り、小休憩の後に撤収作業を行います。


 あれ、撤収作業は別部隊に引継ぎですか?

 確かに倒木はすべて降ろしましたけど、荷馬車の荷台には枝や葉っぱがまだけっこう残ってますよ?


 はい、まあ、慣れない作業で疲れてはいます。そうですね、体力をかなり消耗しているのは確かです。

 承知しました。ご配慮いただき、ありがとうございます。

 自分たちの本日の兵務は終了とし、休憩後に解散いたします。

 後はよろしくお願いします。


 うひー、助かった。ちょっとそこ座りますかね。

 よし。水筒の水、まだ残ってる。

 うわあ。腕がプルプルしてるや。木ってあんな重いんだなぁ。


 ありゃ、こんにちは。

 ちょっと休憩中でしてね。座ったままで失礼しますよ。

 そちらは農作業の帰り道でしたか。こんなところで会うのは珍しいですね。


 こちらはちょうど今、ひと仕事終わったところでして。

 何って、倒木の運搬ですよ。

 でっかい木を何本も積み降ろしして、さすがに疲れました。


 それでか、って、何かありましたか?

 へえ。少し前に弓騎士様が木材加工所の中に?

 楽しそうな顔をして。


 やっぱり木や植物には興味あるんですねぇ。

 ほら、あの方は森の民と呼ばれるエルフじゃないですか。植物と共に生きるっていう。

 薬草の知識はすごいし、森への遠征のときは生き生きとしてましたしね。


 あー、エルフって寿命がすごく長くて、閉鎖的で話が合わないイメージ?

 どうなんでしょうね。

 自分はこれまで他のエルフの方とは縁が無かったので、なんとも言えません。


 少なくとも弓騎士様は話しやすい方ですよ。

 ただ、見た目どおりの歳ではないみたいですけどね。

 以前に立ち話で、弓騎士様は数百年も生きてるようなことを聞きましたが、正確なところはわかりません。


 そうだ。寿命で思い出しました。

 なぞなぞをひとつ。


 最初にこの地域へ送られた自分たち開拓騎士団は、このへんを拠点と決めて周囲の木を切り倒し、それを材料にして建物を作りました。

 騎士団員はわりと若いのを中心に構成されていましたね。体力重視ってことで。


 例外なのはエルフの弓騎士様。

 彼女が最年長で、およそ数百歳。

 二番目がインプの陰騎士様で、百数十歳だとか。

 そして三番目は年齢が88歳です。


 さて、問題。三番目は何かわかりますか?


 ヒントひとつめ。あなたも見たことがあります。もっと言えば、ここからでも立っているのが見えます。

 ヒントふたつめ。見た目では他のとの差がほとんどわかりません。

 ヒントみっつめ。そこの木材加工所の中に、証拠があります。


 いやー、違いますねぇ。その人でもないです。

 どうです? 他に思いつきます?

 降参?


 へっへへ。それでは答えましょう。

 正解はですね。

 あれですよあれ。


 あそこ、兵舎の上に見張り台が立ってますよね。

 いや、見張りの兵士ではないです。

 いやいや、見張り台の天井に立ってる獣騎士様の使い魔のフクロウでもないです。


 正解はー、あの見張り台の柱でーす。


 へーっへっへっへっへっ。

 そりゃわからないでしょうねぇ。

 私も最初は全然わからなかったですもの。


 実はですね。

 このなぞなぞを作ったのは弓騎士様なんですよ。

 問いかけが「誰か」でなく「何か」と言ったのは、わざとです。


 弓騎士様にとっては木の柱もこの村の一員として見ているってところがポイントですかね。

 木も植物も生き物であり、村の一員であると。

 正確には柱の元になった、この場所に生えていた木ですが。 

 エルフならではの考え方なのかもしれません。


 木の歳なんてわからない?

 やー、年輪でわかるそうですよ。

 木を切ったときの切り口の、線の数が88本あったから、88歳だそうで。


 ほら、木材加工所の入り口に飾ってあるでしょ。木を輪切りにした板。

 村を作るときに切った中で一番大きい木だった記念みたいなことが書いてあるやつです。

 あれがその証拠ですよ。なんなら数えてみてください。年輪。


 まあ、今日の倒木の中にはかなり大きいのもありましたからねー。

 もしかしたら年長者ランキングが更新されるかもしれません。

 おそらく今、弓騎士様が一本一本チェックしてますよ。

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