第2話 1月13日 昼休憩

英語の授業は4限目だった。終わったあとすぐに昼休憩が始まる。静かだった教室が徐々に雑踏にのまれていく。


それにしても何故私はあれほどまでにときめいたのだろう。窓の外を見つめながら考えてみた。しかしその試みはすぐに絶たれた。

「こっちの席、来る?」

春菜が話しかけてきた。春菜は今年からクラスが同じで仲良くしている。

「行くわー」

窓際の私の席から1番後ろの春菜の席へ弁当を持って移動する。

私は隠し事をするのが苦手だ。自分の思っていることを内に留めておくと気分が悪くなる。

「今日さ、英語の時に西山くんとペアになったんよね、」

「うん」

「それでさ、なんか先生が目合わせてっていう前になんかガン飛ばしてきて、」

「うん」

「とりあえずうちも西山くんにガン飛ばしといたんよ」

「うん」

「そしたらめちゃくちゃ目がおっきくてさ、なんか好きになるかと思った」

「まじかww」


春菜はニヤニヤしながら続ける。

「まあ西山ってさ、正直めちゃくちゃ優良物件じゃね?」

「あー、たしかになぁ」

そうなのである。西山くんはクラスの中でトップと言っていいほどのイケメンだと思う。と言っても、この学校は県内トップの中高一貫校なので、男子は大体が小学生の時から今まで勉強しかしてきておらず、見た目に気を使ったり、気にしたりするやつはほとんどいない。朝登校すると男子20人のうち3人は絶対に放置したままの寝癖がある。中学受験をするなんてお金持ちなはずなのに、いつも髪が伸びきっていたり、髪型がださい。一方西山くんは見た目に気を使っている様子はないが、寝癖がついているのは見た事がない。幅の広い二重に長いまつ毛、大きな垂れた目は、私を一目惚れさせるのには十分すぎたらしい。

「身長もあるし、筋肉もあるよな」

「うわ、ほんまやん」

そうだ。西山くんは身長が175cmくらいある。また、柔道を経験していたことやスポーツ万能であり、ガタイがいい。噂によると体重が70キロくらいあるらしい。私は女子の中でも身長が高く、170cm程ある。そんな私が誰かを見上げるという経験はほとんどない。そんないつもと違う状況が、授業中でありながら私の内に秘めた欲求を掻き立てたのだった。


色々喋ったり考えているうちに、春菜も私も弁当を食べ終わった。13時5分。10分後、私は所属しているバレーボール部の部会がある。話すネタも尽きてきたのでトイレに行くことにした。


昼休憩にトイレを利用する人は少なく、個室も手洗い場も誰もいない。私は鏡に映った自分を見た。 何かが違う。ほかの女の子と。

顔?髪?何が違う? 自問自答してみたが分からない。二重に高い鼻、小さな顔は持っている。まあまあ美人だと思う。欠点は、出っ歯と、色黒。髪は最近ストレートパーマをかけ、サラサラのボブにした。もう一度言うがまあまあ美人だと思う。でも何か違う。ほかの女の子と。


何が違うのか模索して鏡を見つめたり髪をいじったりしていると、部会の時間が迫ってきていたのでトイレを後にし、部会の会場である化学教室に向かった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラスの優良物件はお高くつくらしい。 たくみ @takumitya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ