Baby
長月瓦礫
Baby
産声とともにソイツは現れた。全身がうろこでおおわれ、鈍い光を放っている。
数百メートルの巨体を揺らし、ビルをへし折る。スカイツリーに手をかけて、ぐらぐら揺らす。足元にいた人間を踏み潰し、赤い足跡を残しながら歩く。
サイレンを鳴らすパトカーを笑いながら、追いかける。
怪獣は動くものに興味を示した。
人間は建物内に隠れ、怪獣が去るのを待った。
少しでも大声をあげれば、怪獣の手が伸びる。
奇声を上げる人間が音の鳴るおもちゃのように見えるらしい。
地面に叩きつけたり振り回したり、好き勝手に扱った。
再び叫び声をあげた。その時、人々は一斉に怪獣の前に躍り出た。
建物の影に隠れていた人々も恐怖を忘れ、堂々と姿を現した。
その声は人間の庇護欲を刺激したのである。
怪獣を守りたくなるか弱い存在として、認識させた。
東京にいた人間は抵抗する気力を失った。
怪獣は自分たちよりも弱く、守らなければならない存在となった。
日本中から食料を調達し、自ら遊び道具になった。
首都にいる人間は数を急激に減らしていった。
生き残った人々は声を広げるために、さらに北上した。
叫び声を録音した機材は地方を走り回り、人を東京へ導いた。
導かれた人々も怪獣のおもちゃとなり、壊されていった。
突如現れた怪獣を育てるために、日本中が狂った。
人口は一気に減り、社会が崩壊した。
世界各地の軍隊が日本へ向かったが、怪獣に対抗できる術はなかった。
どのような兵器を使っても絶対に倒せなかったのである。
日本が怪獣に占拠されるのは、そう時間はかからなかった。
関東地方で収まっていた怪獣信仰は全国へ広まった。
怪獣の鳴き声が全国で響き、日本人こぞって怪獣の下へ駆けつけた。
数年後、日本人すべてを殺戮しつくした。
背中から大きな翼が生え、背丈は富士山を超えていた。
怪獣は大きく羽ばたきながら関東地方を後にした。
そして東京は平和になった。
Baby 長月瓦礫 @debrisbottle00
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