“孤独”による静けさを生かした描写が光る、不思議な魅力がある物語です!

 震災によって孤独の身となった主人公の少女。
 1人静かに過ごす彼女にある日、友達と呼べる少女ができる。彼女と過ごすにぎやかで温かな日々。そんな日常も、ある日突然終わりを迎える。
 現れたのは奇妙な見た目の生物。ソレによって少女が連れ去られてしまう。彼女を助けたくて追いかけた先で、主人公は光る刀を手にする。そうして怪物を退治する日々が始まる…かに思われた。しかし、怪物を相手取るには、主人公はあまりにも“普通の少女”で――。



 三人称で進む物語。淡々と語られる文章ははどこか詩のよう。そんなお話の全体を通して受ける印象は静けさでした。
 人との関りを避け、1人で生きて来た主人公。加えて、震災という暗い過去。そんな彼女が見る世界には色が無く、音も無い。そんな彼女にとっての救いが一冊の本。そこに描かれるファンタジー世界を空想し、夢想に耽ることこそが、彼女にとっての楽しみでした。

 そんな静かな主人公の世界を変えるのが、同じ本が好きで、やがて友となる1人の少女。彼女によって少しずつ、“表情”や“情景”、“会話”といった色・音が日常に加わり、見える世界が変わっていく。その様が、丁寧に描かれます。加えて上述の、静けさや透明さと対照的に描かれるため、友人の少女の存在が主人公にとってどれほどの大きさだったのかもよくわかりました。

 だからこそ、主人公は友人を助けようと動くわけです。怪物という恐怖に震えながら、それでも行動に至る。丁寧な心情の変化の描かれ方が、本作最大の魅力です。

 刀と出会い、窮地を切り抜け、静かな日常に戻る主人公。そこでも1つ1つの音が小説の中からよく響き、“それ以前”の日常との対比がより際立つ。ある意味戻ってしまったとも言える日常。主人公が悩み、葛藤するその姿はまさしく1人の人間で、ただの少女。そんな等身大の主人公が怪物と、その背後いるとある人物に立ち向かおうとする…。その姿は、ついつい応援したくなってしまいました。



 静けさと音を巧みに使って描かれる情景。孤独だからこそ自分と向き合う時間が多くなり、わかりやすい心情の変化。詩のような文章も含め、独特な雰囲気と魅力がある、そんな素敵な物語です!

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