88歳、刑事も探偵も辞めても、事件解決は止めないよ。
黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)
第1話
お昼の鐘の音を聞きながら、今まで色々な事があったと思い返す。
色々色々。よくある話から滅多にない話までいろいろあった。
汚職警官を締め上げた事もある。湾岸の倉庫街で裏の人間とやりあったこともある。軍刀振り回す爺を締め上げた事もあったし、うっかり爆弾魔と鉢合わせして爆弾の解体処理をぶっつけ本番でやった事もあったねぇ。
全く、長い人生だよ。そして刺激が多過ぎたよ。長く太い(神経を要する)人生だよ。
流石にもう、昔みたいにはいかないねえ。
「いたたたたた………」
公園のベンチで一休み。流石に定年前まで無理をし過ぎた。
何処が痛いとかじゃない。全部がもう動かない。
この状態を若者に解り易く言えば『部品交換無しで88年連続稼働させる精密機械』だからねぇ。
スマホ、そこまで持つかい?パソコン、そこまで持つかい?
CPUからソフトから何から年季の入り方が違うのさ。旧式を必死にバージョンアップしてやってきたのさ。ガタが来てもしょうがない。
「ったく、衰えたものだねぇ……」
杖と鞄を脇に置いて、地面を見やる。
「大丈夫ですか、おばあさん?」
影が前から伸びて来た。
学生服に身を包んだ若者…まぁ大体私にとっては若者だけどねえ。
「体調、悪いですか?」
心配そうな顔をして、こっちの顔を覗いて来た。
「あぁ、有難うねェ。ごめんねェ、一寸だけ、疲れちゃってねェ……」
少しだけ気弱な顔をして若いのが私の手を両手で握って自分の顔の前で祈る様に組んで、何かを思い出した様にカバンの中からペットボトルを出してきた。
「これ、どうぞ。」
「あぁ、ありがとね。」
ペットボトルを受け取って、横に思い切り投げ付けた。
「痛ッ!」
ベンチの後ろからコッソリ近付いていた若者2に当たった。
「アイスクリーム強盗の亜種さね。
胸の前で手を組んで視線をこっちに向けたのは視線誘導。だからってね、学生服着たのが平日お昼に公園に居るってのは妙さね。
アンタら、バカにし過ぎだろう。」
「ヤベッ逃げるぞ!」「!」
ガキ共が逃げ出して…公園に隠れて居た私服警官に捕まった。
「さぁ、ヒヨッコ達、仕事しなさいな。」
ヒヨッコでも警官。あとはやってくれるだろうさね。
「ご協力、有難うございます!」
敬礼をする私服警官が一人。
「あー、頑張りなさいね。」
杖を振って帰ろうとして…
「雨宮さん!今回も有難うございます!お昼時なんで、良ければ昼食を奢らせてください!ウマイ味噌ラーメンの店があるんですよ!」
元部下の厚木警部補が来た。
「気は使わないで良いよ。ウチは毎朝味噌汁なもんでね、間に合ってるのさ。」
「あぁ、味噌汁を教えながら事件を解決してるアレですね!この前児相から感謝の電話を頂きました!有難うございます!」
この厚木、良い人なんだが如何せん暑苦しい。
「じゃーね、また何かあったら良いな。
老い先短い命さ、若木の為に肥料にでもなろうじゃないかね。」
元警視総監、元名探偵、現お婆ちゃん、雨宮四季。
彼女の日常は変わっても、彼女の正義の心だけは変わらずにそこにあった。
88歳、刑事も探偵も辞めても、事件解決は止めないよ。 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
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