趣味活は死ぬまで現役

御剣ひかる

趣味の一つや二つ、持っておかないとね

 五歳の娘、樹里亜ジュリアは祖母のことが大好きだ。

 祖母の家に遊びに行くといつも美味しいご飯を作ってくれたり、遊園地や外食に連れて行ってくれたりする、というのもある。

 だが樹里亜が祖母を慕う一番の理由は、今年八十八歳になる彼女、真理まりのバイタリティにあった。

「おばーちゃん、またくるまのうんてんみせてよ」

「オッケーイ」

 とっくに運転免許は返納した真理だが、ゲームの中では運転免許そんなものはいらない。

「オンラインで対戦だよ。今日も一番になっちゃうからねー」

 真理は張り切ってゲームコントローラーを握る。彼女のドライビングテクニックはそこらのゲーマー顔負けである。

 そんな祖母のかっこいい姿に樹里亜はきゃっきゃと大喜びだ。

 一通りカーレースを楽しむと、樹里亜はもう一つのゲームの箱を真理に差し出した。

「ジュリちゃん、つよくなった?」

 難易度が高いことで有名なアクションRPGだ。当然、樹里亜はまだゲームの難易度がどのようなものかなど全然知らないのだが。

「もちろん」

 差し出されたソフトをゲーム機にセットして、真理はゲームを開始する。

 ジュリアと名付けられた華麗な女戦士が、真理の意のままに敵である怪物をさくさくっと倒していく。発売されてまだひと月も経たないのにレベルは最大近くで、すでにストーリーは三周している。

 真理の趣味はゲームにとどまらない。

 アニメ調イラストを描かせれば、樹里亜が幼稚園で友達にうらやましがられるほどの出来栄えで、SNSでもマリアというHNで創作活動を報告している。もう半世紀以上続けている趣味で、まさに年季が違うのだ。

 しかし真理は最近、自作の出来栄えに満点はつけられない。

「最近、細かい作業がちょっとつらくなってきてねぇ。おばあちゃんももう年だねぇ」

「お母さんの基準が高すぎるのよ」

 真理にとっての娘、樹里亜の母があきれて笑う。

「何言ってるの。あずさちゃんや実里みのりちゃんには負けられないのよぉ」

 真理がいう二人は中学の同窓生にして若い頃からの趣味仲間だ。もちろん米寿を迎えている。

「あのお二人って確か『老“腐”人』って名乗ってたよね」

「うん、健在よ。最近また乙女ゲーの男子二人のカプにハマってるんだって」

 真理が、からからと笑った。

「……日本って平和だわ」

 思わず母の口から漏れた一言に、樹里亜はきょとんと首を傾げた。

「ねー、ジュリアにもえのかきかた、おしえてー」

「うん、いいよ。樹里亜ちゃんも趣味の一つや二つ、持っておかないとね」

 祖母と孫のほほえましいやり取りに、でもあんまり沼にハメないでねと樹里亜の母は肩をすくめるのだった。



(了)

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