虫の知らせと僕の恋

櫻んぼ

第1話 第六感

佐野颯真。

高校一年生。



僕には不思議な能力がある。

虫の知らせを人よりはっきり感じてしまうこと。

そしてその第六感は、目に見える形で僕の前に現れること。




初めて見たのは幼稚園の頃。

キラキラした綺麗な蝶々が我が家にやってきた。あまりに綺麗なので、捕まえようと追いかけてみたけれど、僕の手からすり抜けて、その蝶々は母の肩にとまった。





やっととまった蝶々を眺めていたけれど、綺麗だけれど切ない気持ちになる蝶々だった。





そして、家の電話が鳴る。






電話に出た母は泣き崩れて、そんな母を慈しむように、蝶々は母の周りをゆっくり回ってから、空へ消えていった。





そして僕は父が事故に巻き込まれたことを知る。

幸い骨折だけですんだのだが、事故の事を思い出す度に、あの綺麗さと切なさをあわせ持った蝶々の事を思い出すのだった。





その後も、あの蝶々を見ることが時々あった。

そして、蝶々がとまった人の愛する人が、危険な目に合う知らせなんだということに僕は気づくのだった。





虫の知らせだとか、第六感だとか、よく聞くが、目に見えるくせにその能力はてんで役に立たない。

あの蝶々が見えると、蝶々が肩にとまった人の、悲しい姿を見る事になり、とても憂鬱になった。




面倒くさい能力。

心からそう思う。






虫の知らせが目に見える以外は、僕は普通の高校生だ。

毎日電車に揺られながら、好きな女の子を眺める。



好きになったきっかけなんてささいなことだ。

彼女が妊婦さんに席を譲ろうとした時によろけて、側に立っていた僕が思わず掴んで支えてあげた。

ちょっぴり顔を赤らめて、小さく「ありがとう」と言う彼女がとても眩しく見えた。





あの日以来、会釈する程度には距離が縮まっていたが、名前すら聞けずにいる日々が続く。





彼女とは降りる駅が同じだが、学校は違った。駅から1つ目の交差点を越えると、もうお別れだ。

今日は夜中に雪が降ったために、道路が少し凍っている。




ただの顔見知り程度の僕は、そっと彼女を見送る。そして、学校に向かおうとしたその時、僕の目の前を蝶々が飛んでいく。

思わず振り向くと、ふわりと羽ばたいた蝶々は、彼女の肩にとまってしまった。




焦った僕は、思わず叫んだ。




あのっ!




彼女がこちらに振り返る。





き、君の大切な人は、今どこに?!





その人が・・・






焦った僕がまくし立てるのを聞いているのかいないのか、彼女は僕に向かって走ってくる。





なんだ?

こんな日に走ったら危ない!






反射的に彼女を受け止めようと手を伸ばし、受け止めた瞬間、けたたましいクラクションとブレーキ音が僕の耳に刺さった。




と、同時に彼女と共に後ろへ吹き飛ぶ。









どれくらい時間がたったのだろう。







気づくと赤い目の彼女が僕の手を握っていた。

その後ろに見えたのは、大型トラックが電柱にぶつかった姿だった。







そうか、彼女のおかげで。








蝶々がふわりと彼女の周りと、僕の周りを回って空へと消えた。






あんなに嫌いだった虫の知らせに初めて感謝した出来事だった。






そして今、僕の横にはあの時の彼女が微笑んでいる。

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虫の知らせと僕の恋 櫻んぼ @sa_aku

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