エピローグ

 二人の老人が初夏の木陰の下で話をしている。

「米寿を迎えてしまったな」

「おぉ。お互い、しっかりとクソジジイの道を歩んどるな」

「オマエのトコロにも来よったか、米田くん」

「あぁ。来よった来よった。なんか、空元気からげんきのような威勢で来よったわ」

「あいつらの世界も大変のようじゃな」

「大変なんじゃろな。酔わずにはやってられないようじゃったな」

「オマエのトコロでもつぶれたのか」

 二人の老人は顔を見合わせて優しく笑う。

「ワシはあやつが帰った後に残った、畳の上の藁を集めて束にして糸でくくって神棚に置いてやったわ」

「オマエもか。ワシもそうしたわ」

「あやつの神格が上がっていけばええのう」

「そうじゃのう」

「ワシらが長生きする事でそれが叶うなら、長生きする事も悪くないのう」

「ほんに、そうじゃのう。お互い、のんびり、長生きしようや」

 初夏の風が二人の間をやさしく通り抜けていく。


 そんな二人の老人の会話を聞いていた存在が一つ。その存在は二人の老人に認識される事はなかったが、苦々しげに地面の小さな石ころを蹴った。

 そこにもう一つ、それと似たような存在がやってきて言う。

「どうした。若いの、石ころなんざ蹴りあげて。イライラしてもいい事はないぞ。ワシらは神格を上げてなんぼだからな。若いの、オマエは何を司る存在なんじゃ?そして、妖怪か?妖精なのか?それとも精霊か?」

 そう問われて、石ころを蹴っていた存在は答えた。

「オレは、年金の妖精だ」

と。


-終-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

米田さん ハヤシダノリカズ @norikyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ