マジで恋する5秒前?
「なあ」
「……」
「なあおいって」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
「なあとかおいとかじゃありませんー。私には星野・ムーン・セリーナっていう名前があるんですー」
放課後、転校生――茨城が声をかけてきたので私は屁理屈をこねていじわるな返答をしてやる。
「俺、学校指定のタブレットとか買いに行きたいんだけど」
「ふーん。じゃあ買いに行けば?」
「いや、店がどこにあるのかわかんねえし」
「そんなの今どき、ゴーグル宇宙マップ見れば一発じゃん。もしかして都会の人はゴーグルマップの使い方もわかんないの? ぷぷぷー」
「……」
茨城は黙りこむ。ふふん、どーだ。
だけどすぐさまニヤリと笑みを浮かべてきた。
「いいのか? そんな風に言って」
「な、なによ」
「お前が俺に教えるのを放棄したって先生が知ったらどうなるだろうなあ。ただでさえテストの点数悪くて印象悪いのに、内申点にも響くかもなあ」
「ど、どうして私が成績悪いって断言できるのよ」
「そんなの、1日隣で授業受けてるの見てればわかるっつーの」
「う……」
た、たしかに今日は夜更かしのせいで居眠りしちゃったり先生に当てられて答えられなかったりしたけど……。
「それで、どうするんだ? ほ・し・の?」
「わ、わかったわよ! 一緒に行けばいいんでしょ!」
☆☆☆
それから私は茨城を連れて、宇宙リニアの天王星駅前にやってきた。
「このへんのお店に行けば、必要なものはだいたいそろうと思うから」
「……」
「どうしたのよ、ぼーっとして」
「いや、宇宙リニアの駅前にしてはさびれてるなーと思ってさ」
「なに言ってんのよ。このあたりじゃあ一番にぎわってるところよ、ここ」
「ウソだろ……」
がく然とした表情を浮かべる。なによ、田舎で悪かったわね!
「んじゃ、とりあえずこの店で買ってくるから」
「店員さんに西高で使うやつです、って言えばだいじょーぶだから」
「はいよ」
手を振って、茨城はタブレットを買うために手前にある店へと入っていく。
「あーあ。私の貴重な放課後があ……」
ほんとならミチルと宇宙スタバの新作でも飲みに行こうと思ってたのに。『ごゆっくり~』とか言って冷やかしてくるんだから。ほんともう。
失われた放課後を憂いながら待つこと10分。しかし茨城は戻ってこない。アイツ、なにしてんのよ。タブレット買うなんてすぐじゃない――
「なーなーそこのおねーちゃん」
すると、軽薄そうな声が聞こえる。私の目の前に制服+じゃらじゃらした装飾品というわかりやすすぎるチャラ男2人組が立っていた。
この制服……たしか東高だっけ。あそこ、ウェイウェイしたのが多いからヤなんだよなー。
「なあなあ。ヒマならオレたちと遊ばねえ?」
「悪いけど、人を待ってるんで」
こーゆーのはさっさとあしらうに限るよね。そう思ってぷいとそっぽを向く。
「人って友だち? 女の子ならその子も一緒に遊ぼうぜ」
「違います」
「あ、じゃあもしかしてカレシ?」
「もっと違います!」
あんなの彼氏にするなんてありえないって!
「じゃーいいじゃん。オレら、楽しめるとこ知ってるし」
「だから、遠慮しておきます」
「そんなこと言わずにさあ」
「あっ」
離れようとしたところを、腕をつかまれた。ヤバい、チャラ男のくせに意外と力強い。
ど、どうしよ――
「なにやってんの?」
と、背後から私たちを呼び止める声が。振り返ると、買い物を終えた茨城が私をじっと見ている。
「あ、なにアンタ? オレら、これらか楽しく遊ぶんだから邪魔しないでくんない?」
「お前らこそなんなの?」
茨城は言う。いつもよりワントーン低いなあ――――ぐいっ――え?
気がつけば私の身体は茨城の方に引き寄せられていて。
「コイツ、俺の彼女なんだけど」
「!??!!??」
ちょ、ちょちょちょなに言ってんの!!??
「ちっ、やっぱカレシいるんじゃねえかよ、行くぞ」
「おう」
吐き捨てて去っていくチャラ男2人組。って今はそんなのどうでもよくて。
「あ、ああアンタ、いきなりなにを」
「なんだよ。助けてやったんだから礼が先だろ?」
切れ長の目が、私を見つめる。緊張かな、心臓の音がうるさくてしかたない。それになんだか視界がまぶしいのは気のせい?
「あ……ありがと……」
「おう」
ぱ、と離されて、私と彼の距離は元通りになる。
「ほら行くぞ。まだ買うもの残ってるんだから」
「え……あ、うん」
歩きだすのを私は追う。彼の顔は見えなくなったのに、なぜだかドキドキはいつまでたっても消えない。
え、これってもしかして……。
でも出会いは最悪だよ?
でも助けてくれたよ?
「ううう……」
私の高校生活、これからどうなっちゃうの!?
MK5 今福シノ @Shinoimafuku
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