第8話 燎火

 ■■□


 全方位でも十分焼けそうだ。男たちを見ながら熱放射する。

 クーデを覆う火が一瞬だけ膨れ上がった。室内が青白く塗りつぶされる。


「あぅ、まぶしっ!」


 クーデはあまりの光量に目を閉じた。閉じてくれて良かった。

 男たちの服が皮膚が髪が眼球が熱で弾ける。声を上げる暇すら無かったようだ。泡が弾けるように簡単に家が昇華した。吹き飛んだ、ではなく炭すら残さず気化したか。


 ■■■

「わぅ? 家、村が消えちゃった……」


 家を燃やしたからか減ったはずの□が戻っている。燃える物があれば何度でも撃てるのかもしれない。

 クーデがキョトンとし、見晴らしの良くなった家跡で立ち上がる。ババアの家だけでなく、村ごと消失したようだ。ただの空洞になってしまった村にいても仕方ないし、移動しないかな?


「村が……何でこんなに暑いんだ?」

「あっつ、皆どこにいるっすか――!?」


 洞窟前にいた青毛たちが戻ってきてしまった。村が消失した空間は熱がこもっているようだ。場都合ばつが悪そうに立っているクーデに呼び掛けている。


「クーデ、お前がやった、のか?」

「火の精霊様、怒った」

「精霊様……そうか。とりあえず外の奴らを呼び戻してくれ」

「皆を探すのがさ――「早く行け」――!? 分かったっすよ」

「……おじさん、村消えちゃった」


 ため息の後「歩きながら話すか」と青毛が言い、クーデとともに地下の奥へ進む。奥に何かあるのだろうか。入口から遠い壁に手をつくと、青毛は語り始めた。


「ソンジ村は取り残された村だ。火の精霊が隠れた影響は凄まじく、温暖な気候が一夜にして極寒となった。おかげで避難も準備もできないまま村は疲弊していった。幸い洞窟があったため急いで拡張し、以降村を洞窟内に置いた。クーデをにえとした儀式は盲目的な信仰によるものだった。今まで使えていたように着火できなくなった。寒いのに暖を取ることすらできない。獣人は生き延び、寒さに耐えきれない者たちは去った」


 何とも変な話だ。火がつかないとは。ポンっとクーデと青毛の間に火を出してみる。目を見開いた青毛を見るに、話は本当なのだろう。


「おぉ、驚いたな。これがなのか?」

「たぶん」

「精霊様の怒り、か。婆たちは苦しまずに逝けたか?」

「あっという間」


 「そうか」と村の入り口を見ながら青毛がつぶやく。感傷に浸っているのかもしれない。閉塞したコミュニティでは正しい判断が出来なくなっていくだろう。


 5人の若者が入口から駆けてくる。熱は青毛の話の間に冷めたらしい。

 家族や親戚が消えた原因であるクーデ。青毛の説明に激昂げっこうする者が2人。青毛が女性を止めるも、藍色の毛のひょろくて弱そうな男――貧相な革鎧は森から出た所にいた奴か――はクーデに槍を突き出した。

 クーデに槍が届くと吸い込むように焼失し、勢いよく突っ込んできた藍毛もまた焼失した。


 ■■■■


 静まり返ったクーデたちをよそに、■が増えた事に俺の興味は移っていた。

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寝過ごした500年後の世界は氷河期でした。燃やすモノもらっていいですか? あるまたく @arumataku

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