第7話 消えない炎 後

「クーデ、火は?」

「薪の下」

「……薪に火は頂けないと?」

「わからない」

「……しばらく待ってな」


 薪に火が点かないことを知るとババアは外へ出て行った。クーデが小さな火に手を近づけると「あったかい」らしい。雪を融かす程度の熱しか発しない火だからな。次は薪を燃やすか。


 ふと遠くから話し声が聞こえてきた。青毛の住民の声だ。あー、火を投げておいたやつは、まだ燃え続けているらしい。


「そろそろ火が点いたかもな」

「だと良いですね。生贄にされた子が戻って来たのは初めてでした」

「ああ、ここに20年ほど立っているが……驚いたよ」

「点かなかったらどうするんです?」

「首輪をはめて売られるんじゃないか? 村には置いておけないだろう」


 クーデが売られると、この村から移動できるのか。首輪をされるなんて奴隷みたいだな。でも火を点けてまともな扱いを受けるのか、という疑問が湧く。点けても軟禁されたりしてな。


「火の精霊様、薪に火は点けられない?」


 若干不安を張りつけた顏で聞いてくる。火力を上げたければ■を消費すればできる。どうせ使うならばクーデを覆う火を強めておこう。

 自身を覆う火が強まったことにクーデが気づき、「違う、薪に火」と言っている。住民の反応がみたい、我慢してくれ。




 体格の良い2人の男が10mけんに入ってきた。初めて見る顔だ。ナイフを持っている所を見るに、火を点けてもダメだろうな。手を胸の前で合わせ震え始めたクーデに近づきながら男どもが言う。


「何だ? 婆の家、あっついな」

「あー、火を点けられねぇか。ウソは上手くつくもんだぞ?」

「さっさと出るぞ、ってあっつ!」


 クーデを覆う火から放熱してやったら男どもは足を止めた。■を消費しなくとも熱は出るらしい。陽炎の向こうで、たたらをふむ男たちがクーデに向かってナイフを投げた。すり抜けると思っていたので迎撃しなかったナイフは、クーデの肩を掠め祭壇に突き刺さった。放熱中は守れないのか。


「痛い、やめて、やめて……」


 肩を押さえ縮こまるクーデに慌てて放熱をやめ、肩を癒す。幸い痕は残らない程度だ。癒えた後もクーデは後ずさりして離れようとしている。今までどんな扱いを受けてきたんだ?


「くそっ! 手こずらせやがって」

「死ぬまで痛めつけてやる!」


 


「死ぬのは、お前らだ」

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