257 『オルタナティブ』
「いったい、なにが……」
マルチャーノが驚き、皇帝のアンデッドから視線を巡らせる。
視線の先には、サツキがいた。
サツキが手のひらを突き出す形の構えをしていた。
皇帝のアンデッドが持っていた杖も、その付近に砕けて落っこちている。
――なるほど!
掌底の形から、拳を握り、サツキがマルチャーノを見た。
二人の視線が絡む。
そして。
マルチャーノはカッと目を見開き、口をニタリと鋭くゆがめた。
「そうか! そうだったか! 貴様は! 城那皐! 貴様は、まだやれるのか! なにか、オレには見えない輝きを秘めているのか! いいじゃないか、それでこそレオーネとロメオの
フフ、とマルチャーノは笑う。
「見誤っていたことを詫びよう。貴様にはなにかがあるらしい」
折れた杖。
壁に衝突した皇帝のアンデッド。
それらから、マルチャーノはサツキがなにをしたかがわかった。
サツキが皇帝のアンデッドの杖を拳で叩き割って、続けざまに掌底を叩き込んだ。
そんなところだろう。
――レオーネとロメオを殺して玩具にすれば、オレの指先一つでマノーラを統治できる計算だった。だが、先に誘神湊と城那皐を手に入れるのも悪くないじゃないか! こいつら二人ならやつらの代わりが務まるかもしれん。少なくとも、誘神湊さえ手に入れればレオーネとロメオのどちらかを殺せる。その後、もう一方を殺して、すべてをオレのものにする! いや、待て。誘神湊と城那皐は育ててから殺したほうがいい。悩ましい! こいつらがいればレオーネとロメオも簡単に手に入るのに、すぐには殺したくない! もっと磨いて磨いて、殺したくて殺したくて我慢できなくなるまで磨き上げて、最高の状態で殺してやりたい!
それが至高というものだ。
だからこそ悩ましかった。
また呼吸を整え、
――いかん、恍惚に浸るにはまだ早い。こいつらをどうしてくれるか考える必要こそあるが、殺す直前まで追い込んでから決めよう。そうだ、そうしよう。そうすれば、どこまで磨き上げる必要がある素材なのかもハッキリする。
楽しい楽しい考え事が終わり。
マルチャーノはビシッと指を差した。
相手はサツキ。
「貴様を見定めてやる! オレの知らない貴様のすべてを暴き、身体の隅々まで見て評価してやるぞ!」
「悪いけど、傷はもう消えてます。見るほどのものはありません」
サツキが腕を広げる。
確かに、さっきあれほど脇腹を抉られるようにやられて、出血量もなかなかだったのに、もうすっかり治っているらしい。
「そんなおかしな肉体を持っていたのか!」
「痛みがないわけでも、傷つかないわけでも、どんな傷でも治せるわけでもないですが」
「意外な芸があるようだな。ますます貴様の身体は調べなければならなくなった。だが、城那皐の真髄はもっと別なところにある。そうだろう? 誘神湊」
問いを向けたのはミナトに対して。
これにミナトは端然と答えた。
「ええ。そんな再生能力などはおまけです。サツキの目も、潜在能力も、フィジカルも、頭脳も、優しさも、どれも素敵だ。いろんな要素が魅力ではありますけど、先にも言ったでしょう? 器が違うんです」
「器、か。ああ、良い言葉だ! 器をそっくりそのままいただくオレにはときめく言葉だ。いいだろう、その器がどんなものか、見せてもらう!」
無駄話に聞こえた。
ミナトには戯言に聞こえた。
どうもマルチャーノが考えていることがわからないからだ。
が。
ふと、ミナトは目をパチッと開いてマルチャーノを見据えた。
なぜなら、マルチャーノ自身に変化が起きようとしているとわかったからだ。
「サツキ」
「うむ。なにか、始まるらしいな」
当然、サツキも目を凝らしてマルチャーノを見つめていた。
次の更新予定
2025年1月10日 23:00
MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮 青亀 @aogame33333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。MAGIC×ARTS(マジック×アーツ)-アルブレア王国戦記- 緋色ノ魔眼と純白の姫宮の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます