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 気分がいい。

 昨日の久々の対局は快勝だった。

 今は帰りの新幹線である。もうすぐ東京に着く。こんなに気分のいい遠征帰りは初めてかもしれない。

 東京駅に着き、軽い足取りで列車を下りる。

「あっ、加島先生じゃないですか?」

 突然声をかけて振り返ると、中年の女性が僕の方を向いていた。

「はい」

「ファンなんです!」

「ええっ、僕の?」

 初めて言われたのでびっくりしてしまった。

「はい、今日ちょうどこれ読んでたんですよ。サイン貰えませんか?」

 そう言って、『ネタ将なれるかなガイドブック』が差し出された。

「え、僕でいいの? ネタ将じゃないけど」

「ネタ将はみんなそう言うんですよ」

 満面の笑みである。これは断れない。

 そんなわけで僕は、生まれて初めてのサインをした。

「ありがとうございます! 大切にします」

「うん、これからもネタ将をよろしくお願いします。僕はネタ将じゃないけど」

 本当に気分がいい日だ。ただ、どうにも僕はネタ将と思われてしまっているようだ。困ったものである。



『チームネタ将のキセキ』完



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チームネタ将のキセキ 清水らくは @shimizurakuha

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