はるか未来に残る秘密

荒川馳夫

まさか、ほかの誰かに読まれるなんて……

「なんだと、もういっぺん言ってみろ!」


「何度でも言ってやるよ。この阿呆!」


2人の男が激しく言い争っていた。お互いに憎悪がにじむ顔つきをしていた。

彼らははるか昔の人物だ。小さな村に住む顔なじみで、ある時点まで仲良くやっていた。だが、一人の女性が現れてからは状況が変わった。


その女性を自分のものにしたい。

両者とも同じ気持ちだった。しかし、女性は一人としか結婚できない。

すると、何が起こったか。


お互いが女性にアプローチ作戦を仕掛けたのだ。贈り物やデート等で女性を手に入れようと競い合った。そして、2人の関係にヒビが入った。


初めは小さな衝突だったのだろう。それがいつの間にか、修復不可能な関係になっていた。


結局、2人とも女性と結ばれることはなかった。別の男性と結婚したからだ。


「お前がいなけりゃ、私はあの娘と結ばれていたはずなんだ。それを……」


「オレだって同じ気持ちだぜ。お前が余計なことをしてくれるから……」


未練がましく互いを罵りあう男2人。これで済んだならば、まだ良かった。だが、2人とも怒りが収まらなかったようだ。


片方の男が粘土板(まだ紙がない時代のお話ですので)に仲違いした男の知られたくない秘密を書きなぐり、皆の目につく場所に置いてしまったのである。


「へっ、これでアイツは村にいられなくなっちまうだろうよ。オレの恋路を邪魔した報いさ。さぁ、もう寝ちまおうっと」



 はるかな時が過ぎ、現代に至る。一人の考古学者が重大な発見をした。なんと、古代人の残した粘土板を見つけ出したのだ。


「さてさて、何が書かれているのかな?」


考古学者はウキウキだった。自分の手で発見したのだから、喜びも増すものだ。

しかし、文章の解読をし終えてこう呟いた。


「人のやることなんて、今も昔も変わらないなあ。誰にも知られたくない秘密を書き残されたら、恥ずかしくなって生きていられないよ」


考古学者は気分が悪くなった。大昔に生きていた人物の黒歴史を読まされるなんて想像もしていなかったのだから。


しかし、話しはここで終わらなかった。少し離れた場所から別の粘土板が発見され、それの解読を試みた。そして、さらに気分を悪くした。


「同じような黒歴史を同じ日に二度も読まされるなんて……」









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はるか未来に残る秘密 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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