第14話 このゲーム世界の現実……
次の日の朝。
俺らは誰からともなく起きて、勝手に初期装備で持っている携帯食糧で腹を満たす。
ウィンドウを開いて確認した時間で、午前九時頃。
流石にまだ起きない寝坊助は叩き起こされて、俺らは行軍を再開した。
途中で何体もの雑魚モンスターとは遭遇したけれど問題は無い。
レベル一とはいえ、最強装備を持つ男子たちの一撃で、モンスターたちはあえなく消滅。
全てのモンスターは一撃で倒れた。
そうして昼前。
俺の予想通り、俺らは王都に着いた。
王都の第一印象は城砦都市。
周囲を高い壁でぐるりと囲い、門は開かれているが分厚く、城壁の上には開閉のための巨大クランクがふたつとりつけられている。
あれを門番が四人がかりで回し、開閉を行っているのだ。
門をくぐると、そこは石造りの白い街並みで、とても美しい光景だった。
でも、余韻に浸るひまなんて俺らにはない。
整備された石畳みの上を、俺と好美は駆けた。
楽観的なみんなは俺を呼びとめながらも、ついてくる。
向かうのは神殿だ。
柴田たちは復活しているのか、一秒でも早く確認したかった。
俺の運動性能ならこの程度の疾走はなんでもないのに、心臓が張り裂けそうなほど激しく脈を打つ。
頼む。頼む。頼む。
死んだら終わりのデスゲーム。
それだけはやめてくれ。
もしもそうなら。
この世界で死んだら終わりなら。
好美が死に、ガラスのように砕け散る様を想像するだけで、俺は奥歯を強く噛みしめた。
神殿は王都の中央にある。
俺と好美は、いつのまにかみんなを置き去りにして走り続けていた。
「見えた! 神殿だ!」
「うん、急ごう月兎!」
引っ込み思案な好美も余裕がないのだろう。声が強い。
広場のさらに奥に、二体の女神像が見える。
その先には、神々しく背の高い、神殿が見えた。
入口の上で俺らを見下ろすステンドグラスがその証だ。
俺と好美は慌てて神殿に駆けこんで、祭壇の間に入った。
なかには掃除をする若い神官がひとりしかいない。
「すいません! 昨日の夜、復活した人はいませんか?」
俺が息を切らせながら詰め寄ると、若い神官はぎょっとする。
「なな、なんですか貴方は? 復活? なんのことですか?」
「いや、えっとだから、死んだらこの祭壇で復活しますよね?」
一縷の望みをかけるように、俺はぐっと拳を握りこむ。
若い神官はたじろぎながら、
「死んだら復活? 何を言っているのですか? 死んだ人が生き返るわけがないでしょう? 仮死状態でしたら、蘇生呪文やアイテムで息を取り戻しますが、そのことですか?」
「………………そんな」
俺と好美は何も言えなかった。
両手を口に当てる好美の横で、俺は一歩、二歩とうしろへあとずさる。
仮死状態。
それはこのゲーム、モンスレにおける状態異常のひとつだ。
例えば、残りHPが一〇〇のときに、一〇〇〇のダメージを受ければ、即死で神殿送りになる。
ただし、残りHPが一〇〇のときに、一〇〇とか一一〇のダメージを受けて死んだり、毒のダメージとかで死んだ場合は、仮死状態になる。
この状態は、五分以内に蘇生呪文か、蘇生用アイテムを使えば、神殿に送られることなく、その場で復活できる。
神官が言っているのはそのことだ。
つまり、この世界では、死んだら神殿で復活というシステムが存在しない!
服部たちが遅れてやってきた。
みんなが口々に文句を言いながら祭壇の間へ入って来る音が、残酷なほど部屋を満たしていく。
三四人。これだけの人数に、俺は言わなくてはならないのだ。
俺よりも先に好美が振りかえって、俺は手で好美を制した。
みんなへ振りかえり、俺は自分でもわかるほど青い顔で告げた。
「柴田たちは復活していない……神官にも確認した……」
服部たちのあいだに動揺が走る。
『嘘でしょ』とか『どういうこと?』と、不安げに囁き合う。
「ゲームで死んだらログアウトして、現実世界に帰っている。向こうで目が覚めているていう可能性もゼロじゃない。でも……」
俺は、痛む心臓を抑え込むように、右手で服の胸元を握りしめ、最後の言葉を絞り出した。
「これがデスゲームの可能性が出てきた。少なくとも、死んでも復活なんてシステムは、この世界にはないんだ」
祭壇の間を、静寂を支配した。
もう、不安げな囁きすら聞こえなかった。
こうして俺らは、先の見えない闇へと落ちて行った。
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作品解説した通りここまでです。
人気があったら本格投稿したいです。
ボッチがハマっていたゲーム世界にクラス転移 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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