第22話 てんせいしゃ

「シン君…君はもしかして、異世界からの転生者?」

「…え?」


 ルィリアの意外な結論に、俺は素直に驚いた。

 何がどうなって俺が異世界転生者という正解に至ったのかはわからないが、ルィリアの口からその単語が発せられたという事はつまり、この世界にも異世界転生という概念が存在するという事だ。


「念のため説明すると、異世界転生というのはこことは違う別の世界で何らかの理由で死に、この世界に新たな生を受けた者の事を表します」

「…どうしてわかったんだ」

「本当にシン君は異世界転生者なんですね…」

「いいから、何で俺が異世界転生者だってわかったんだよ?」


 俺はまるで急かすように問う。


「はい。実はこの異世界転生、稀に人間離れした能力を得て転生するケースがあるんです。だからシン君は、転生する際に魔術が効かない能力を得て転生したんじゃないかと!」

「…」


 違う、そうじゃない。

 何だろうこのモヤモヤ感は。

 よくあるパターンで例えるなら、算数のテストで答えは合っているのに途中式が間違っているみたいな…。

 確かに俺は異世界転生者ではあるが、ルィリアの言うようないわゆるチート能力は残念ながら授かっていない。


「…何ですか、その微妙そうな顔は」

「答えは合ってるが、その考察は間違ってる」

「なんですかその意味わからないのは…というか、私の考察の何が間違っていると言うのですか!?」

「…まず俺があの炎に耐えられたのは、仲間の加護があったからだ。別にチート能力とかそんなんじゃない」

「ちーと、というのは分かりませんがそうだったんですね。うわぁ…加護という考えは持ち合わせていませんでした…」


 俺は種明かしをするとルィリアはタネが意外なものだったらしく、悔しそうな顔で頭を抱えた。


「…研究にイレギュラーは付き物と言いますが、実際に遭遇してみると、こんなにも解決法が思いつかなくてモヤモヤするものなのですね」

「イレギュラー?どういう事だ?」

「イレギュラーというのは、要するに例外という事です」

「そういう事じゃねぇよ!俺がイレギュラーだっていう理由だよ!」

「そ、そんなのわかってましたよ!これは私なりの天才的冗談です!」

「本当かよ…」


 ていうか天才的冗談ってなんだよ。

 そんな変な強がりが天才だというのなら、きっと他の人達は神か何かだろう。


「とーにーかーく!シン君がイレギュラーだという理由…それは、先程言った特殊能力を得て転生した者にある2つの共通点が関係してるんです」

「2つの…共通点?」

「はい。それは、自身が異世界転生者であると認識出来ること…すなわち、前世の記憶を引き継いでいるという点です。そして、今私たちが生きているこの世界と類似した…しかしこの世界と違って魔術が存在せず、その代わりに文明が発達した世界からの転生者であるという点です」

「あー…」


 俺はその、チート能力を得た異世界転生者にあるという2つの共通点が自分に当てはまっているかどうかを脳内で確認…する必要もなかった。

 結論から言うと、2つとも共通はしている。

 俺は前世の記憶を引き継いでいる故に自身が異世界転生者であるとわかるし、前世で生きていた世界は確かに魔術は存在しなかったし文明もこの異世界よりも発達していた。

 しかし、ここまで共通しているのに何故俺にはいわゆるチート能力が無いのだろうか。

 いや、俺自身が気付いていないだけで本当は得ているのだろうか?それとも使う場が無いくらい微妙な能力なのだろうか?


「さっき言った2つの共通点は当てはまる…が、俺には特殊能力なんて無いぞ…そもそもアンタの言う“人間離れした能力”って、具体的にどんななんだ?」

「そうですね…私が知っている例から言うと、生まれた時から魔力量が異常な程に膨大だとかですね」

「…魔力量が膨大な事がそんなにすごい事なのか?」

「当たり前ですよ!魔力量は成長と共に徐々に増えていくものです。ですが異世界転生者の場合最初から遥かに規格外なんです!しかもそこから更に増えていくのですから、もう立場が無いですよ」

「でも魔力量が多いっつっても、結局魔術が人より長い時間使えるだけだろ」

「いいえ、実は魔術の強さというのは魔力量に比例しているんです。つまり魔力量が多ければ多いほど魔術も強くなっていくんです」


 つまり例えるなら、ゲームでレベルが上がるとステータスが上昇するようなものか。

 仮にレベルの上限が100だとすると、異世界転生者は最初から100…強くてニューゲームという訳だが、更にそこからインフレして101、102…とレベルが上がっていくという事だろう。

 …ルィリアの言う通り、この世界の住人の立場が無いな。ていうか、異世界からの転生者の方が優遇されているとはもう意味がわからん。

 もし神がいるのなら、多分そいつは神に転生した、異世界転生モノが大好きな奴だろう。


「私が聞いた話だと、その異世界転生者が練習で放った点火イグナイテッドが村一帯を焼き尽くしたとかなんとか」

「…なんか、そこまでいくともはやギャグだな」

「こういった話があるので、この世界では基本的に異世界転生者は忌み嫌われています」

「…まぁ、納得だな」

「シン君も異世界転生者なんでしょ?他人事じゃないと思いますが」

「俺、点火イグナイテッドで村を燃やした事無いし」


 俺は鼻で笑い、まるでバカにするようにそう言った。


「…シン君の場合は大丈夫そうですね」

「何が?」

「先ほども言ったように、異世界転生者は忌み嫌われています。なので、異世界転生者は自身が異世界転生者だとバレないように魔術を使わないように抑制しなければいけないのですが、シン君の場合はその必要は無いですよね」

「そうだな。俺普通に家の庭で魔術の練習してたし、魔力とやらは人並みなんだろうな」

「ですが、どうしてなんでしょうね?」

「知らないよ…別に気になってないし」


 俺は切り捨てるようにそう言って、また窓の外の景色を眺めた。

 確かに異世界転生者にある2つの共通点を満たしているにも関わらず、魔力は人並みで対して特殊能力も備わっていない事に疑問はあるが、それはそれで異世界転生者が忌み嫌われるこの世界ではいちいち気にする事なく生きていけるので問題は無かった。

 力は欲しいが、そんな周りに甚大な被害をもたらす程の危なっかしい力は要らない。だって、そうなったら俺の手を繋いでいる咲薇が危ないから。


 しかしふと俺は、ある事が気にかかった。

 それは、俺がかつて住んでいた街から人が失踪してほぼ廃墟と化した件についてだ。あれってもしかして、異世界転生者が何らかの魔術を使ってあの街に甚大な被害をもたらしたのではないか?

 だとしても、あんな建物を綺麗に残したまま人だけを街から出す事なんて出来るのか…?まぁ異世界転生者なんて、なんでもありだからきっと俺達が出来得ない事をやったんだろう。

 もっとも、あれに異世界転生者が関係していたらの話だが。


「…ていうか、こんなに大きな声出してんのに咲薇ってば全っ然起きないな」


 俺はふと、ルィリアの隣で可愛らしい寝息を出しながら眠る咲薇に目を向ける。楽しい夢でも見ているのか、口元が少しニヤついている。


「そうですね…気を遣う意味ありませんでしたね」

「アンタは遣ってないだろ…」

「えっ!?私結構気遣っていましたよ!?」

「ほら」

「…あっ」


 その後、ルィリアが王都に着くまで一言も喋らなかったのは、言うまでもない。

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兄妹転生 〜残酷な運命背負わされたが、俺の妹だけは絶対幸せにしてみせる!〜 枝乃チマ @EdaPINAPOP

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