第42話「喜びと涙」
「ふふ、なんだか照れくさい……」
「同じく……てか、冬貴たち遅いな……?」
コンビニに行くだけなら、そろそろ戻って来てもいいくらいには時間が経っている。
それなのに冬貴たちは一向に帰ってくる気配がなかった。
「レジが混んでるのかな……?」
「いや、田舎のコンビニなんてそうは混まないぞ?」
「そうだね……まぁ、まだ戻ってこないなら……」
そこで言葉を止め、夏実は期待するような目を秋人に向ける。
キスは駄目と言われているので、夏実が何を求めているのか秋人は真剣に考えてみた。
しかし、鈍感な男である秋人は、答えを出すことができない。
だから、夏実は諦めて自分から秋人の胸に飛び込んだ。
「彼女になったんだから……ちゃんと甘やかしてよ……」
夏実は拗ねた声でそう言い、物欲しそうな目で秋人の顔を見上げる。
「な、何をしたらいい……?」
「と、とりあえず、頭を撫でる、とか……?」
言われるがまま、秋人は頭を撫でてみる。
すると、夏実は『えへへ……』とだらしない笑みを浮かべた。
撫でられるのが好きなようだ。
秋人はそんな夏実のことをやっぱりかわいいと思いながら、優しく撫でていく。
頭なでなでは、五分間ほど続いた。
「――ねぇ、それで、大切な話があるんだけど……」
撫でられている間に秋人の股の間に座り、背中を秋人の胸に預けていた夏実は、上目遣いで秋人の顔を見上げてきた。
「そう切り出されると怖いな……」
秋人は少しだけ緊張しながら夏実を見つめる。
夏実は手で自分の髪を耳にかけながら、照れたように口を開いた。
「その、さ……何か思い出さない……?」
「えっ……?」
「ほ、ほら、昔した約束、とか……」
「や、約束……?」
夏実にそう切り出された秋人は、慌てて過去の記憶を探る。
しかし、果たしていなかった約束の心当たりがない。
(やばっ……俺、夏実と何か約束してたっけ!? 全然思い出せないんだけど!?)
付き合ったばかりなのに約束一つ覚えていないのはまずいと思い、秋人は内心とても焦ってしまう。
夏実はそんな秋人の顔をじぃーっと見つめた。
さすがにまずいと思った秋人は、申し訳なさそうに口を開く。
「そ、その……ごめん、覚えてない……」
「むぅ……」
秋人が覚えてないと言うと、夏実は凄く不満そうに頬を膨らませた。
よほど大切な約束だったのかもしれない、と思い秋人はもう一度記憶を探るが、それでもやっぱり思い出せなかった。
「あの、ごめん……教えてもらえると助かる……」
思い出せない以上、知っている本人から教えてもらうしかない。
そう思った秋人はお願いしたのだけど――夏実は、首を左右に振った。
「駄目、自分で思い出して」
どうやら、秋人に思い出してもらいたいらしい。
「そこは意地にならないで頂けると……」
「とってもとってもたい~せつな、約束だったから、秋人に思い出してもらいたいなぁ?」
わざとらしく、かなり強調をする言い方をされ、秋人はそれ以上何も言えなくなった。
そこまで大切な約束を忘れるとは思えなかった秋人だが、夏実がこう言っている以上、是が非でも思い出さないといけないと思う。
そんなことを考えていると――。
「お、思い出すまで、キスとか、その……先のこと、させてあげないんだから……」
夏実はとても恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めながら、口元を両手で押さえてそう言ってきた。
大胆なことを言ってきた夏実だが、秋人は本当に思い出さないとまずい、と思った。
「ヒ、ヒントは……!?」
「ふ、冬貴?」
「なんでそこで冬貴なんだ!? あっ、あいつに聞けってこと!?」
冬貴の名前が出た理由がわからなかったが、冬貴に聞けばわかるんだと秋人は捉えた。
しかし、夏実は慌てて首を左右に振ってしまう。
「ち、ちがっ――冬貴の存在がヒント……! 冬貴に聞いたりするのは反則……!」
「な、なんでそこまで……?」
「秋人に思い出してもらいたいの……!」
どうしてここまで夏実が必死なのか秋人にはわからないが、反則と言われてしまった以上仕方ないだろう。
冬貴なら夏実にわからないよううまく教えてくれそうな気はするが、それでは彼女の想いを裏切ってしまうことになるので、秋人は自分で思い出すことにした。
(とはいえ……冬貴の存在がヒントだって言われても……全然わからないんだけど……)
どうすれば思い出せるのか、秋人は再び頭を悩ませた。
「これって……思い出すまで、デートもなし……?」
全然思い出せる気がしない秋人は、どこまでが駄目なのか気になり、夏実に聞いてみる。
すると夏実は、両手の人差し指を合わせ、顔を赤くしながらモジモジとし始めた。
「そ、それは、あり……というか、デートしてくれなきゃ、拗ねる……」
どうやら、デートはオーケーなようだ。
「拗ねるんだ?」
「当たり前……」
聞き返してきた秋人に対して、夏実は恥ずかしそうに無愛想な態度を取る。
そんな夏実のことがかわいすぎて、秋人は優しく頭を撫で始めた。
それにより夏実は気持ち良さそうに目を細め、再び体を秋人へと預けてくる。
どうやら、頭なでなでもオーケーのようだ。
「…………」
少し思うところがあった秋人は、夏実の頭から段々と下に手をスライドさせていく。
「あっ――こ、こら……くすぐったい……」
耳から頬にかけて撫でられた夏実は、言葉通りくすぐったそうに身をよじる。
だけど秋人の手は止まらず、今度は首筋を優しく撫でた。
だから夏実は顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに涙目で秋人の顔を睨んだ。
「あ、秋人……!」
「うん、ちょっとだけ意地悪しようと思ったけど……これ、止まれそうにないから、ここでやめておく……」
一歩的に禁止事項を突き付けられたことに対して意趣返しをしてみた秋人だったが、夏実が色っぽすぎてタガが外れそうになったので、この辺でやめることにした。
「そ、そういうのも、思い出すまで禁止だから……!」
夏実は体をモジモジとさせながら、そう秋人に告げた。
「頭は?」
「そ、それは、あり……」
だけど、それでも頭なでなではやってもらいたいらしく、恥ずかしそうに頷いた。
「じゃあ、今はこれだけ……」
「あっ、んっ……」
秋人が頭に手を置くと、夏実は嬉しそうに目を細めた。
そして、再度体を秋人に預けてくる。
二人は、それから少しの間二人きりの時間を楽しむのだった。
(それにしても……冬貴たち、遅いな……)
――と、そんな疑問を抱きながら。
◆
「――夏実ちゃん、よかったね……」
現在、秋人の部屋のドアの前にいた春奈は、両手で顔を押さえながら夏実のことを祝っていた。
その隣には、なんとも言えない表情の冬貴が立っている。
冬貴たちは最初からコンビニには行っておらず、ずっとドアの前で中の様子を窺っていたのだ。
正直、秋人が突然告白を始めたとはいえ、止めるチャンスは何度もあった。
それでも春奈が止めに入らなかったのは、親友である夏実のことを優先したからだ。
両の目から涙を流す春奈を見た冬貴は、今度は自分が頑張って春奈を幸せにしよう、と決意したのだった。
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【あとがき】
今までありがとうございました!
これにて完結となります!
今回は珍しく、切ない終わり方にしてみました!
(正直ハッピーエンドのままで終わらせるか、春奈の心情を表すかには大分悩みました…!)
今後またいつか、続きを書けるといいなぁと思っております!
次の新作はファンタジーに挑戦したいなぁ、と思っており、
twitterで投票をした結果、ローファンタジーを書くことになっておりますので、
またいつか新作を投稿したいと思います(*´▽`*)
(現状忙しくてすぐには無理…!)
また、昨日9/25にはオーバーラップ文庫様から
『負けヒロインと俺が付き合っていると周りから勘違いされ、幼馴染みと修羅場になった』
の1巻が発売されていますので、是非よろしくお願いします♪
こちらはWEB版に書き下ろしを沢山してたり、
改稿して更に面白く、そしてヒロインの可愛さを増し増しにしていますので、
是非お願いします(#^^#)♪
それでは、これからも『お隣遊び』、『負けしゅら』ともども
ネコクロをよろしくお願いいたしますm(*_ _)m
【完結】「幼馴染みがほしい」と呟いたらよく一緒に遊ぶ女友達の様子が変になったんだが 【2巻発売決定!!】 ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】 @Nekokuro2424
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