第41話「変わる関係」

「夏実」

「な、何……?」


 急に名前を呼ばれ、夏実は戸惑いながら秋人の顔を見る。


「大切な話があるんだ」

「え、えっと……あっ、やっぱり私も春奈ちゃんたちについて――」

「待って」


 逃げるように部屋を出ようとした夏実の手を、秋人は優しく掴んだ。

 それにより、夏実は諦めたように腰を下ろす。


「えっと、屋上でのことなんだけど……」

「――っ」


 秋人が数日前の昼休みについて話題にすると、夏実は息を呑んで身を固くしてしまった。


「実はあの時、俺目が覚めてて――」

「――ご、ごめん……!」


 秋人が照れくさそうに話していると、夏実は絶望したかのように顔色を青ざめて頭を下げてきた。

 それにより、秋人は戸惑ったように夏実を見つめる。


「な、夏実……?」

「い、嫌だったよね……! 本当にごめん……!」


「あ、あの夏実……?」

「わ、私、つい出来心で……! 寝てるからバレないだろうって、やっちゃったの……! ほんと気持ち悪かったよね……! ごめん……!」


 夏実はいっぱいいっぱいになっているようで、秋人の言葉が聞こえていないらしい。

 捲くし立てるように謝り、顔を上げようとはしなかった。

 だから、秋人は――。


「別に、気持ち悪いなんて思ってないから……!」


 夏実の両頬を手で挟み、自分のほうを向かせてそう言った。


「ほ、ほんと……?」


 夏実は涙目で秋人の目を見つめる。

 そんな夏実に対し、秋人は力強く頷いた。


「本当だよ! むしろ、逆に――う、嬉しかったんだからな!」

「――っ!?」


 秋人が顔を真っ赤にしながら思っていることを伝えると、夏実も秋人と同じようにブワッと顔を真っ赤に染めた。

 目は大きく開かれており、信じられないとでも言いたげな表情を浮かべている。


「夏実にキスされて、嫌って思うわけないだろ……!」

「そ、それって……」

「だ、だから、嬉しかったんだって……!」


 夏実が聞きたそうにしているので、秋人は恥ずかしそうにしながらももう一度同じ言葉を伝えた。

 それにより、夏実は秋人から離れて自身の両手で顔を押さえ、嬉しそうに身悶え始める。


「~~~~~っ。そ、そうなんだ……」

「う、うん……」

「「…………」」


 二人は気恥ずかしくなってしまい、黙り込んでしまう。

 沈黙を破ったのは、秋人のほうだった。


「その……夏実って、俺のことが好きってことでいいのか……?」

「そ、それは……」


 時間が経って熱が引き始めた夏実の顔は、カァーッとまた赤くなってしまう。

 そして髪を手で弄りながら目を逸らし、居心地悪そうにしている。

 そんな夏実を見た秋人は、夏実の顔を真剣な表情で見つめた。


「ごめん、先に聞くのは卑怯だったな。俺は、夏実のことが好きだよ」

「――っ!?」


「だから、夏実の気持ちを聞かせてほしい」

「えっ!? えっ!? えぇえええええ!?」


 突然秋人から告白をされた夏実は、驚きで大声をあげてしまう。

 そんな夏実を、秋人は顔を真っ赤にしながらもジッと見つめた。


「ほ、本当に……!? 私に気を遣ったりしてない……!?」


 秋人から告白をされると思っていなかった夏実は、喰いつくように確認をしてきた。


「う、うん、当たり前だよ」

「あ、後から、冗談とか、嘘だったとか言ってももう遅いよ!?」

「う、うん、嘘じゃないから大丈夫」


 夏実に迫られ、秋人はコクコクと頷いた。

 それにより、夏実はパァッと表情を輝かせる。


「い、いつから!? いったいいつから私のこと好きだったの!?」

「そ、それは……うん、わからない……」

「えぇ!? 何それ!?」


 わからないと言われ、夏実はショックそうな表情を浮かべる。

 それを見た秋人は、慌てて口を開いた。


「い、いや、昔からかわいいとは思ってたんだよ……! ただ、気になるって感じで、好きだったわけじゃなくて――気が付いたら、好きになってたんだ……! 多分、更に意識するようになったのは、夏実がバイトを始めてからだと思う……!」


 バイトをするようになってから、学校では見ない夏実の一面を見るようになり、更に魅力的に見えていた。

 それともう一つ、秋人は恥ずかしくて言葉にしなかったが、夏実がグイグイと積極的に迫ってくるようになったのも大きい。


「そ、そっか……えへへ……」


 夏実はとても嬉しそうに笑みを浮かべる。

 そして、ソッと秋人の腕に抱き着いてきた。


「な、夏実……?」

「い、いいでしょ、これくらい。か、彼女なんだし……」


 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、夏実はそう言って秋人の肩に頭を置いた。

 しかし――。


「返事、何も聞いてないんだけど……」


 夏実に気持ちを聞いたのに、夏実はまだ答えていない。

 だから、秋人は困ったように笑みを浮かべてしまった。


「あっ……」


 指摘をされてから、夏実もやっとそのことに気が付く。

 告白をされた衝撃で舞い上がっていたようだ。


「わ、私も、秋人のこと……好き、だよ……?」


 夏実は恥ずかしそうに体をモジモジと擦り合わせ、上目遣いで答えた。

 それにより、秋人は思わずゴクッと唾を飲んでしまう。


「じゃあ、俺たち両想いで、付き合うってことでいいんだよな……?」

「う、うん、もちろんだよ……。むしろ、ここで恋人じゃないって言われたほうが困る……」


 秋人の言葉に対して、夏実は小さく頷く。

 顔は真っ赤に染まったままで、とても恥ずかしそうだ。


「じゃ、じゃあ、よろしく……」

「う、うん……」

「「…………」」


 付き合うことになり気恥ずかしくなったせいで、数分前と同じように二人は黙り込んでしまう。

 沈黙の時間だけど、不思議と居心地は悪くないようだ。

 しかし、このまま黙っているのも良くないと思い、秋人は口を開いた。


「な、なぁ?」

「な、何……?」

「恋人って、何するんだろ……?」

「そ、それは……キス、とかでしょ……? わかってるくせに……」


 まるで無知を装う秋人に対して、夏実は不満そうな色を見せる。


「キス、か……」


 秋人は思わず、夏実の唇に視線を向けてしまう。

 すると、夏実はバッと勢いよく離れた。


「ま、待った待った! さすがに付き合って初日は早いよ……!」


 秋人がキスをしたがっている。

 そう勘違いした夏実は、顔を真っ赤にしながらブンブンと首を左右に振った。

 両手は、唇を隠すように口元を押さえている。


「い、いや、勘違いするなよ!? 誰も今しようとは思ってないからな!?」

「ま、まぁ、それならいいけど……」


 夏実は納得したように、秋人の隣に戻ってくる。

 そして再度腕に抱き着いて、頭を秋人の肩に乗せてきた。

 どうやら、これを気に入っているらしい。


 秋人は照れくさい感情に襲われながらも、夏実のことをかわいいと思った。

 夏実はまるで猫みたいに、スリスリと頬を擦り付けてきている。


「うん、そういうのはゆっくりでもいいかな……。ほら、一緒に居るだけでも幸せだし……」

「そ、そうだね……。でも、まさか秋人がそんなくさいこと言うなんて……」

「う、うるさいな。俺だってたまにはこういうことを言うんだよ」


 照れくさそうに笑う夏実に対して、秋人は苦笑いを浮かべてしまう。




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【あとがき】


いつも読んで頂き、ありがとうございます!


明日で最終話になります(*´▽`*)


楽しんで頂けていますと幸いです♪


話が面白い、キャラが可愛いと思って頂けましたら、

レビューや感想を頂けますと幸いです(#^^#)

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