第40話「決める覚悟」
「――いつも通りに戻った、かなぁ?」
夏実と秋人が言い合いを始めた頃、春奈は二人から離れて冬貴に声をかけた。
冬貴はドキッとして顔をほんのりと赤く染めるが、何事もなかったかのようにクールな様子を見せて口を開く。
「ど、どうだろうね? 今はなんだか、無理してはしゃいでいるようにも見えるし」
「そっかぁ、早く仲良しに戻るといいね」
「そうだね……」
春奈の言葉に頷く冬貴ではあったが、二人の仲が戻った場合、春奈はどうするのだろうかと思った。
むしろ春奈にとっては、二人が変な雰囲気になっている今がチャンスだろう。
それなのに何かを仕掛けるどころか、夏実と秋人を仲直りさせようと率先して動いている。
とても優しくていい子ではあるが、そのせいで損をしていることに冬貴は胸が痛んだ。
しかし、ここで春奈に余計なことを言って、春奈が心変わりしても困る。
どうしようもない状況に、冬貴はやきもきしてしまった。
「二人とも、そろそろ勉強を始めないと、時間がなくなっちゃうよ?」
休日とはいえ、既に夕暮れ前の時間なので、あまり勉強する時間は残されていない。
だから、言い合いをする二人の間に春奈は入っていった。
「とりあえず、次のテストで決着させよう……!」
何やらまだテストの点数で言い合いをしていたらしく、秋人はそう夏実に提案する。
「い、いいわよ。今度こそ、秋人を跪けさせてやるんだから……!」
夏実は夏実で何やら燃えており、二人は次のテストで勝負することにしたようだ。
「勝負するんだったら、まずは平均点を取ろうか?」
そんな二人に対し、冬貴は笑顔で首を傾げた。
二人はいつも赤点ギリギリなので、勝負するくらいならまともな点を取れ、と言いたいようだ。
「くっ……自分がいつも春奈ちゃんとトップ争いしてるからって、偉そうに……」
夏実はなぜか悔しそうに冬貴を見る。
夏実にとって冬貴は若干子分的立ち位置にいるので、マウントを取られるのが悔しいのだろう。
すると、冬貴が笑顔で口を開いた。
「みっちりしごいてやろうか?」
「遠慮しとく……!」
しごかれるのは困る夏実は、即行で答えた。
それにより冬貴は呆れたように溜息を吐いて、クッションに座る。
「とりあえず、夏実の集中力が続きそうなほうから先にやろう」
冬貴のその提案によって夏実は現国を選んだので、秋人と夏実は先に春奈に勉強を教えてもらうのだった。
◆
「――じゃあ、一旦この辺で休憩しよっか?」
一時間半ほどが経つと、春奈が笑顔でそう言ってきた。
「つ、疲れた……」
「もう、今日はこれで終わりでいいと思う……」
秋人と夏実は、二人してテーブルに倒れ込んだ。
集中して勉強に取り組んでいたので、気力を使い果たしてしまったようだ。
「いや、たった一時間半でなに音(ね)をあげてるんだよ……。この後は、数学をみっちりやるからな?」
既に気力のない二人を見て、冬貴は呆れたように溜息を吐いた。
「冬貴の鬼畜~。こんな状態じゃ頭に入らないわよ~」
「そうだそうだ~。もう今日は終わりでいいぞ~」
「こういう時ばかり結託をするなよ……。赤点を取ったら困るのは、秋人たちだぞ?」
「うぐっ……毎回思うけど、そういう言い方は卑怯じゃないか……?」
夏休みに補習などまっぴらごめんな秋人は、嫌そうに体を起こした。
それに合わせて、夏実も体を起こす。
「こうでも言わないと、やる気出さないだろ……。とりあえず、疲れた頭でやっても効率悪いし、しっかり休憩を取ろう」
そう言う冬貴は、なぜか部屋から出て行こうとする。
「あれ、どこに行こうとしてるんだ?」
「ちょっとコンビニでも行ってくるよ。は、春奈ちゃんも一緒に行かない?」
冬貴は秋人の質問に答えた後、若干上ずった声で春奈を誘った。
春奈は少し驚いた様子を見せるが、秋人と夏実を見て何かを思ったらしく、コクコクと一生懸命に頷いた。
それにより冬貴はホッとするのだが、秋人も立ち上がってしまう。
「お、俺も行くよ。気分転換に外に出たい」
何やら若干慌てている秋人だが、実はこのまま残るとまずいことに、そうそうに気が付いたのだ。
このままでは、夏実と二人きりになってしまう。
だから、秋人は二人について行こうとした。
しかし――。
「あ、秋人は疲れてるんだろ? ゆっくり休んどけって」
「う、うん。休憩しておかないと、勉強が頭に入らないよ?」
冬貴と春奈が否定的な態度を見せたので、付いて行くことができなくなってしまった。
二人は秋人が何かを言う前に、そそくさと部屋を出てしまう。
それにより取り残された秋人は、困ったように夏実を見た。
すると、夏実が居心地悪そうにソワソワとしていることに気が付く。
「ど、どうした?」
「う、うぅん、別に何もないよ……」
夏実は自身の髪を弄り、秋人と目を合わそうとしない。
二人きりになっていることを、夏実も意識しているようだ。
秋人は腰を下ろすが、どうしようか悩んでしまう。
コンビニということは、冬貴たちが戻ってくるまで大して時間はかからない。
だから、気まずい雰囲気を我慢して時間が流れるのを待つべきなのか、それとも二人きりになったことをチャンスと見て、気まずい雰囲気を振り払うのか――。
(考えるまでもない、よな……)
ここで問題を先送りにした場合、夏休みにも影響してしまう。
そして、アルバイトでは夏実をフォローしないといけない立場のため、悠長にしている余裕もなかった。
だから、秋人は覚悟を決める。
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【あとがき】
いつもお読み頂き、ありがとうございます!
今晩、もう1話更新します(*´▽`*)
話が面白い、キャラが可愛いと思って頂けましたら、
レビューをして頂けますと幸いです♪
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