笑い礼讃

蒼河颯人

笑い礼讃

 僕は現在、普通に生きている。

 何不自由なく生きている。

 

 勤務日は朝準備を済ませた後勤め先へと出掛け、日々業務をこなし、終業後は帰宅する。日々その繰り返しだ。

 夜は翌日の準備をした後、僅かに生まれた自由時間をゆっくりと過ごす。その時間、テレビは立派な一つの小道具として活躍してくれる。

 

 僕がテレビで観ているのはニュースやドラマだけでなく、世間一般的に言うバラエティ番組も割と見ている。

 この前、とあるお笑い番組で扇風機のスイッチを入れると送風ファンの部分が離れて飛んでいってしまうとか、中古のテレビのスイッチを入れた数秒後に突然爆発して部屋が滅茶苦茶に大破したりするというコントがあっていた。その番組を観ながら大笑いしつつも、人を笑わせるのって結構難しいからこういう番組を作る側はいつも大変そうだなと頭の片隅で常に思うことがある。

 

 大抵「番組」と名付けられたものは「脚本」がある為、完全に人の手によって「作られた」ものだ。これが作り物ではなく実際に起きたことだとどうなのだろうと改めて思った。

 

 以前こんなことがあった。

 出たばかりのお菓子で、まだ地域の店舗でも殆ど扱われてないものを僕が偶然手に入れた。職場で偶然合流した友人とそれを試食してみたところ大ウケで「今度買ってきて。後でお金を払うから」と頼まれた為、幾つか購入し持っていったところ「昨日帰りに寄ったお店で珍しいのを売ってたの見つけてさ、君にと思って買ってきた!」と彼は何とその全く同じ商品を持ってきており、結果として妙な物々交換になってしまった。しかも彼はそのお菓子を食べたことを忘れていたらしい。貰ったものは勿論有り難く美味しく頂いた。

 

 またこういうこともあった。

 ある日の朝、同僚の女性社員が珍しく僕と同じ電車に乗ってきていた。彼女は車通勤なので、通勤電車の中で会うのはこれが初めてだ。

「実は代車がパンクしちゃってね……」

 可哀想に、ちょっと悄気げていた。

 話しを聞くと、一昨日の夜に彼女の愛車が緊急停止表示が出てレッカー移動になったそうなのだが、昨日の夜に代車がパンクしてしまいまたまたレッカー移動となったらしい。代車がパンクするとは聞いたことがないのだが、何かコントでやっていそうな話しだ。

 

 あと二・三日前にこんなことがあったのを思い出した。

 

「朝は少し冷えてたからマフラーしてきたんだけどさ、昼間はやはり暑いから外したんやけど、どうやったら鞄に可愛く結べるかなあ……」

 

 その日早上がりする同期の男性同僚が、仕事終わりにぶつくさ言いながら通勤用の黒い鞄の肩紐にパステルカラーのマフラーを結び付けていた。結局リボン結びになったようだが、本人曰く「何だかよく分からん結び方」と言っていた。

 

 僕にとっては至って普通の日々を送っているだけなのだが、何故かコントのような面白い出来事が周囲で時々起きているようだ。マメに記録していると本一冊位軽く出来てしまうかもしれない。しかし、これはきっと感謝すべきことなのだろう。僕はそう思う。

 

 作られたものでも、自然のものでも、笑いに包まれた日常はかけがえのない素晴らしいものだ。

 戦争や紛争が起きている地域では日々生き延びるのが精一杯で、その「笑い」の機会すら奪われているのだ。命に脅かされることなく「笑い」の機会に恵まれている僕達はその平和な日常に感謝すべきだと思う。例え辛いことや泣きたいことがあったとしても。

 

「笑いがなければ人は生きられない。 だから僕は笑いを大事にしたい」

 

 と、生前の志村けんは言っていた。

 

 笑いのある人生は、最高だ。

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笑い礼讃 蒼河颯人 @hayato_sm

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