お昼ご飯の選び方

寄鍋一人

何食べる?

 キーンコーンカーンコーン……。

 正午を伝える鐘がなる。午前の一仕事を終え、朝から腹の虫を鳴らせていた会社員は、今か今かと待ち望んでいたこの至福の時間を堪能するため、オフィス街のビルの隙間をぬって各々の胃が求める料理と味に向かっていく。


 同じ部屋の他の人たちが足早に会社を出ていく中、この同期たちはまだ会社から出れずにいた。

 優柔不断な彼らは意味もなしに自分たちの携帯を取り出しいじりつつ、いつもの会話をする。


「何食べるー?」


 決まってこの一言から始まる。

 オフィス街にご飯屋さんが多いのはありがたくも悩ましい。選択肢が多くて困る。


「うーん……どうしようね」


「何の気分? 米? 麺?」


 スタートは大枠のジャンルから。


「お腹めっちゃ空いてるから米かなぁ」


「米かぁ。どこ行く? 開拓する?」


 ジャンルを絞れれば選択肢もかなり減るが、開拓、つまり新しい店を探すことも視野に入れるとまだまだ多い。


「開拓してみるかぁ。……こことかは?」


 携帯で会社の近くのご飯屋さんを適当に調べて見せる。


「間に合わなくない?」


 一時間という限られた時間内で、行って食べて帰ってくる、をこなす必要がある。

 遠ければ行くだけで昼休憩の半分を使いそうだし、調べて簡単に出てくるほどの人気のある店だったら行列に並ぶ時間もある。たくさん食べるならもっと時間がかかる。

 この「間に合わなくない?」の発言の裏では、そういう計算がされてたりされてなかったりする。


「他にいいとこある?」


「いや、わからん」


 調べてピンとくる店があってもなんとなく開拓しようという気持ちにはならなかった。


「じゃあ〇〇とか〇〇とか行く?」


 結局最終的に選択肢は行きつけのご飯屋さんまで絞られた。

 ご飯はご飯でも肉系だったり魚系だったり、その中でもから揚げみたいな油使いまくりのものだったり、生姜焼きみたいな味濃いめのものだったり、おかずの種類は色々あるだろう。


「どうする?」


 こうしている間にも昼休憩の時間は減っている。

 早く決めないとなぁという気持ちがありつつも、決定的な意見は出ない。


「寒いからあったかいの食べたい」


 もはやジャンルですらない。ご飯はたいていあったかいだろう。

 ここまでくると真面目に決めるのもめんどくさくなったのか、


「じゃあ〇〇ラーメン行こ」


「いや米じゃないじゃん」


「ライス頼めば米あるよ。それに肉も野菜もあるし。ラーメンは完全食だと思ってる」


「たしかに」


 もう全員が全員どうでもよくなってる。美味くてお腹が膨れればとりあえず午後も頑張れるのだ。


「〇〇ラーメン行くならつけ麺だな」


「え、あったかいの食べるんじゃなかった?」


 彼らは特に何も生み出さないくだらない話をして、今日も麺を啜る。

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お昼ご飯の選び方 寄鍋一人 @nabeu

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