狐の婿入6

  

「例えば鬼、妖狐、化け狸、付喪神、天狗等々……このモノらは妖術を使います、鬼や狐がよく使う術で分かりやすいのは鬼火ですね。たまぁに突然変異で魔力を扱うモノもいるんですが


 妖力なら妖術、魔力なら魔術です。それらを扱う物が妖術師と魔術師なんですよ」



「あぁだから……ん?師という事は何かの職業の一つというか、肩書き的な何かなんですか?」



「そうですね、一応資格もありますしそういう認識で大丈夫ですよ」



「資格?」





 確かにゲームとかでは魔道士、魔法士、魔術士、魔女等は役職としてRPGでも仲間の職業として活躍している記憶がある。つまりはそういう事なのだろうか?

 何となく納得出来たような、まだやんわりと理解出来ていないような……。と頭を傾げているとそれを見たカミさんはクスクスと笑った。


 何となく不服で少しむすくれるとカミさんは一つ、何かを考える動作をして片手を掌を上にして前に出した。





「なので魂迎課の大半は妖術師か魔術師だったりします、かくいう私もその内の一人です」





 そう言うと、先程差し出された掌の上にパチパチと弾ける音ともに小さな雷が出現する。

 黄緑色に光るその雷は自然現象のソレとまさに同じもので、規模と大きさが違うだけのように見える。


 しかし、だが待て、あれ?確か日本では妖術師が主流なのだろう?話の流れでは妖力は陰と陽を主にしているのだろうと分かるが、なのにカミさんは妖術師が使う妖力の属性を使っていない……これは魔力の属性と先程説明されたばかりだ。





「カミさんは魔術師なんですね」



「そうですねぇ、この資格は千差万別無く誰でも取得出来ます。妖力か魔力があればの話ですが……


 どんな種族でも妖力か魔力さえあれば取得出来る様になってるんですよ。先程言ったヨトゥン族の女性……アデルさん、彼女も魔術師の資格を持ってます」



「ほへぇ……」





 最早途中から漠然とした気持ちで壮大なファンシーファンタスティックメルヘン的な話を聞いていた。それに気付いてるか否かは定かでは無いが多分カミさんの事だから気付いてると思う。だって現にまたクスクスと上品に笑ってるから。


 カミさん、表情は骸骨の仮面で分からないけれど優しく笑うから、人柄の良さがよく伝わる。





「それとヨトゥン族についてでしたね」



「はい」



「ヨトゥン族は巨人族の中の一つの種でして霜の巨人に部類されます。とある国のとある地域で伝承されている大昔からいる種族です


 巨人族の中でも警戒心が強い傾向にあり、大きさもやや小柄…否、人間大に近しい体格の者が多いんです。

 アデルさんは比較的大柄の巨人として生まれた様ですが、巨人族の皆が皆大きいとは限らないのが特徴ですね」



「へぇ…」



「留意すべきはという名称ではありますが皆が巨大という訳ではありません、中に異形の姿も巨人として言われることもありますから」



「あっそうなんですね」




 カミさん曰く、余り知られてない上に時代が進むにつれて生者の魔生物と呼ばれるファンタジー的な存在は次第に酷く一部に、そして偏見的に認知され始めている傾向にあるという。巨人族もその現象の被害の一つだそう。


 神話に登場するロキやフェンリルでも神や狼と知られてはいるがその実巨人と同じ部類にされるらしい。まぁロキは巨人の血を引いているからまだ分かるが…フェンリルは完全に巨人とはカウントしようとは思わないような見た目だから全く知らなかった。


 ……というか、この唐突な…否わりと唐突では無いし私自身が既にもうファンタジー的なサムシングのそれだ。とは言えだけれど急にそういう毛色が強くなったな、本当にここは地球?

 それを何気に納得出来ているというか、状況を理解出来ている私もまた異常な気がする。我ながらびっくりだ。はて、私は生前こんなに冷静だっただろうか?


 いや……思い出すのはよそう、カミさんが目の前にいるのだから昔を思い出すのは不躾だ。カミさんは手伝ってくれてるんだから





「嗚呼それと、魔術師か妖術師になれる者には特有の素質があります」



「特有の素質?」



「なんだったらこれが一番左右するでしょう。魔力か妖力を持てば勿論なれるにはなれるのですがそれよりも最優先される基準があります」



「それは?」





 それは──……と続こうとした瞬間、カミさんの声の上に駅到着の放送とキキィッという甲高い金属音が鳴り響き、動いていた車輌は止まった。

 私達の降りる駅で、慌ててコンパートメントから出て列車から降りる。降りる際に優しく取られた手はそのままに目的地まで歩く。

 なんでも、そのコンビとは駅周辺で集合とのことらしい。


 そう言えば、カミさんはオキノという方を君と呼び彼と例えた。アデルさんは堂々と女性と言っていた。


 ……この任務、やっていけるのか少し不安になってきた。いやカミさんがいるから多少は大丈夫なのだろうけれど何時までもカミさんに甘えている訳にもいかない。

 出勤二日目だけれど。





「あっいたいた!おーーい先輩!!」



「おや、存外元気だ。思っていたよりことは落ち着いてるんですかね。やぁ沖野君、アデルさんは現場かな?」



「あははっこれでも結構参ってますよ、思ってる以上に厄介でしてね。アデル先輩が暴れない内に早く移動しましょう!」



「そうですね」





 オキノさんは気付いていないのか私に目を向けることはなくあれこれと話を進めそのまま現場まで行くことになった。私は別に慣れてはいるし大丈夫なのだけれど……気付いた時の反応が楽しみだなーって。


 オキノさんという人物は、彼は想像している容姿より若く優等生という評価に合った真面目そうな顔立ちと雰囲気をしている。


 深緑色の左側かき揚げの爽やかな短髪気味の髪型、琥珀色の瞳に猫のようなつり目。肌は白過ぎず焼けすぎてもいない程よい健康的な肌色で黒の下縁眼鏡、好青年な笑顔を浮かべる男子。

 白いカッターシャツに赤いネクタイ、その上に黒い丈が短めのモコモコとしたジャケット。黒い手袋を身に付けている如何にも仕事出来ますよ感が半端ない容姿をした人物で、なのに口調は敬語だけど割と砕けていてフランクな感じ。少しだけ見た目との差がある…ギャップの塊?みたいな人だな。


 私に気付いていないらしいのをいい事にこれみよがしにカミさんの後ろに隠れてオキノさんと言う未知の存在を観察する。


 なんて事をしている内に割と駅から近場だったのかとあるグランドホテルの前に止まり、中に入った。その名の通り日本でも割と珍しいまさに欧米にとってのグランドホテルそのものの様な内装で、入って直ぐに広がるロビー絢爛豪華だが下品に主張したりせず、厳格な雰囲気を醸し出しているデザインと装飾。

 上を見上げれば巨大なシャンデリアが下がっていて下を見れば自分の姿が反射して見えるほど磨き挙げられており、ますます高級感溢れている。


 ……待て、こんな煌びやかで貧乏庶民の私には心臓にも目にも悪く今にも痛むほど輝きまくっているホテルで、魂迎課が、出張…?

 という事はだ、という事はだよ?とどのつまりコレはそういう事で…あぁ、理解したくなかった。極端に面倒くさい奴じゃないか!


 オキノさんがフロントの受付さんに何か話を付けて、そのままエレベーターの方に案内された。……ホテルぐるみッッ!!





「こんな豪華な所で私達が出るってことはやっぱりアレだったんですね」



「はい、紛うことなきアレでしたね。それでいて僕達の手には負えなかったというか一気に範囲が広がったというか…」



「君にしては釈然としない物言いですね、何があったのか部屋でちゃんと説明して下さいね」



「はい、勿論です」



「私も彼女を紹介しなければなりませんし」



「……彼女?」



「おや?気付いてませんでしたか、今回私がここに来たのはほぼ付き添い役みたいなものでしてね。メインはこの子なのですよ沖野君


 ほら文さん、ずっと私の後ろを漂ってないで顔を見せてあげましょう?」





 そう言われてカミさんに肩を優しく押されてオキノさんの前に出る、彼は突然の私の登場に驚いてるのか鳩が豆鉄砲食らったかのような顔をしている。


 本当に気付いてなかったのか……まぁ別にいいのだけれど。


 さて、突然……では無いけどカミさんに自己紹介するようにと言われてしまった、頭が一気に真っ白になったのだけどこの場合はどうしよう?

 名前を言えば終わりなのだろうが、それだと無愛想だと思われてしまって相手が不快に思うかもしれない、何か付け加えて言えることは無いかと考えてもパニックで頭は上手く働かなくなってしまったし、まず元から紹介出来るような特徴がない。


 あぁ駄目だ、こうやって考えてるうちにも二秒三秒と時間は一々進んでしまう!早く言わないと、でもどうしよう、えっとどうしよう、早くっ何か口にしないと、でも…えっと急がないと相手を待たせてしまってるしエレベーターが到着してしまう、どうしよう。

 それに……あぁほれみろ言ったことか、目の前のオキノさんは何も言わずに口をパクパクさせてる私を見て首を傾げてるじゃないか!やはり私には駄目なのだろう、他人とお喋りするのが苦手だ、改めて思い知らされた。


 ネガティブな事がひとつ思い浮かんでしまったが最後、脳内でズブズブと沼に引き込まれて息が出来なくなってしまう。

 体が震え上手く呼吸ができない、口からは声にならない音が微かに掠れた息と共に吐き出される、冷や汗が出る、もう駄目だ。無理だ、まともに喋れない奴だと思われてしまってるだろう…完全に自業自得だ。

 きっと今の私の顔は、酷く歪んでいるのだろう。


 もう嫌だ、喋りたくない


 まだ、アレが、私の中にこびり付いてる






「っ……ぇ……ぁ…の……ーッの…」



「………」



「えっと……」



「……この子は相生文さん、生前を私が担当していた子でしてね。死んで魂迎課で働く事を選んだ勤勉な将来有望の新人ですよ


 かなりの人見知りと緊張しいでしてね、迚繊細で優しい子ですから…それと君達は同い年なので、沖野君?文さんとは仲良くしてあげてくださいね」





 口吃る私の肩に手を置かれて、優しい声色で私の代わりに私を紹介してしまったカミさん。あぁもう……なんで私自分で自己紹介出来なくて他人任せにしてるんだよ、カミさんにまで迷惑かけて。


 で……え?今カミさんなんて言ったの?





「え?同い年?この子と?」



「厳密には文さんは幽霊ですので、享年17歳です。因みについ先日幽霊になりまして昨日が文さんの記念すべき初出勤でしたよ」



「へぇ……そりゃ凄い偶ぜえっ?今なんて?」



「昨日が文さんの記念すべき初出勤でしたよ」



「……入社して早々外に駆り出されるってアリなんですか?」



「普通は無しですよ」



「やっぱりあの課長は、ほんっと…ほんとに!!入社してまもない子に外出すとか鬼の所業じゃないですか!!」



「因みに記念日初出勤、外に駆り出されました」



「帰ったら課長にチョークスリーパーかけてもらうようにアデル先輩に頼みます」



「お願いします」



「………?」

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金嫌い少女の死神守銭奴ライフ 元薺ミノサト @minosato

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