それ行け! スターカイザー号
広之新
それ行け! スターカイザー号
(この広い宇宙は無法地帯だ。多くの犯罪者が跋扈する。このスターカイザー号で宇宙の治安を守らねばならない。宇宙を駆ける我々には休息の時はない。)
「私の勝ちよ! 500万ダーラ出しなさい!」
「それはイカサマです!」
助手のイリヤと人型アンドロイドのハッシュがカードをしている。静かな時間を邪魔されたダンは言った。
「こらこら! 騒ぐんじゃない!」
「そう言っても暇なんですよ!
「それもこの狭い船に4人だけ・・・何も起きないし、やることもないですよ。」
イリヤとハッシュが愚痴を言った。その時、「バーン!」と大きな音がして辺りを異臭が漂った。
「ガス漏れだ! どこだ!」ダンが叫んだ。するとドアを開けて助手のジャイカがキャビンに入ってきた。彼は太った体に大きな腹をしてズボンを引き上げていた。
「はああ・・・。すっきりした。腹の調子が悪かったんだ!」
すると一斉に3人が鼻をつまんだ。
「それはよかったな。」ダンが鼻声で言った。
「何をしているのですか?」ジャイカが訊いた。
「いや、なに・・・。素潜りの練習だ。」ダンたち3人はごまかそうと泳ぐ真似をした。
「いや、その机の上の・・・」
「あっ。カードをしていたの。あっ、ちょうど4人いる。いっしょにやりましょう。」イリヤが言った。
4人はすぐにテーブルについてカードを始めた。ダンたちは宇宙服のヘルメットをかぶっていた。
「こうして4人でカードをするのは久しぶりだな。」ダンが感慨深く言った。
「そうですね。この船の自動操縦装置が壊れてから、必ず一人は操縦席に座っていましたから。」ジャイカが言った。
「そうだな一人は・・・」ダンが言いかけた時、4人ははっとした。
「操縦席に誰もいない!」
4人はヘルメットを脱ぎ捨てて、あわててコックピットに向かった。しかしあまりに慌てすぎて4人はぶつかって勢いよく転び、這いつくばって何とかコックピットにたどり着いた。すると正面から宇宙船が接近してきていた。
「
「舵を切るんだ!」ダンがそう言って操縦桿に飛びついて大きく倒した。すると何とか宇宙船をかわした。
「なんという宇宙船だ!」ダンは怒って通信機を起動させた。
「どこに目をつけているんだ! 馬鹿野郎め!」
すると向こうの宇宙船から通信が入り、モニターに映った。
「ごめんなさい。制御装置がうまく動かないものですから・・・。」それは清楚な美人だった。ダンは慌てて姿勢を正し、カッコつけようと少し斜めになって話しかけた。
「いえ、気にすることはありませんよ。お嬢さん。ここの乗組員は気の荒い奴が多くて。嫌ですな。ははは。」ダンはさっきの暴言は自分ではないという風に装った。
「助けてください。私はホング星のアンヌ王女です。攻撃を受けているのです。海賊が追ってきているのです!」
「それはいけませんな。この私、
「戦闘用意! 王女にいい所を見せる・・・いや、海賊を追い払うんだ!」
すると本当に高速宇宙艇が追ってきた。スターカイザー号は反転してビームを放った。
「向こうから通信してきています!」イリヤが言った。
「無視しろ! どうせ、海賊だ。脅そうとしているのだろう。」ダンが言った。スターカイザー号のビーム攻撃にその高速宇宙艇は引き上げていった。
「見たか! このスターカイザーを!」ダンは操縦桿を叩いて喜んだ。するとまたあの宇宙船から通信が入り、モニターにアンヌ王女が映った。
「ありがとうございます。おかげで助かりました。お礼を直接申し上げたくて。そちらの船にお邪魔してもよろしいかしら。」
「ええ、ぜひ!」ダンはまたカッコつけながら言った。
通信を終えるとダンは両手を叩いて3人に言った。
「さあ、王女様がいらっしゃる。キャビンを片付けろ! ハッシュはキッチンでケーキでもパイでも作れ! さあ!」
その声でてんやわんやとなった。ハッシュはキッチンに行ったが、イリヤとジャイカは大慌てで片付けだした。しかしあっちにぶつかり、こっちにぶつかり、そこいらに物をぶちまけていた。「あちゃ~」と操縦席からそれを見ていたダンは目を押さえていたが、宇宙船がドッキングして船が停止した途端、彼はそこから離れて人並外れたスピードで片付けだした。
「何とか間に合った・・・」ハッチが開く寸前に何とかキャビンは片付いた。ダンとジャイカとイリヤは息を切らせながら並んで王女を待っていた。
「パン!」とハッチが開くとそこには凶悪な顔をした宇宙人が3人立っていた。彼らは
「動くな! 我々はオロンの海賊だ!」とレーザー銃を構えていた。
「これは一体? 早く王女に会わせろ!」ダンが言った。
「お前たちはだまされたのさ。いいカモだ。この船をもらったぞ。」海賊は不気味に笑いながらすぐに3人を縛り上げた。
「そんな~」ダンはため息をついた。
ダンとジャイカとイリヤは縛られたまま海賊の宇宙船の船倉に叩き込まれた。そこは灯りがついてなくて暗かった。
「ひどいところだな。」ダンが言った。
「海賊船の船倉だからいいものがあるのかな?」ジャイカが辺りを見渡すが暗くてよく見えない。
「いや、それどころか殺された人の骨が転がっているかも・・・」イリヤが恐ろしげに言った。それを聞いてダンとジャイカはぞっとして下を向いて少し震えていた。そこに、
「あの~」という声が聞こえてきた。
「ひゃっ! 幽霊だ!」ジャイカが叫んだ。
「そ、そのようね。
「ふ、ふるえてなんかない。ちょっとトイレに行きたいだけだ。ジャイカ。ちょっと見て来い。」ダンがジャイカを押し出そうとした。
「俺だって怖いんです。
「俺はいい。そうだ。イリヤ。お前が行け! 女だったら幽霊も遠慮するかも。」ダンがそう言うと、
「嫌ですよ! 大の男が2人、しっかりしてよ!」イリヤが勢いよくダンとジャイカを押すと2人は壁にぶつかった。その時、船倉の灯りのスイッチが入ってパッと明るくなった。すると白い服装の女性が一人立っているのが見えた。
「ひえー!」幽霊が出たと思って3人が顔を上に向けて叫んだ。
「あの~。あなた方も捕まったのですか?」
ダンたちが恐る恐るその声の女性を見ると、あのモニターで見た女性だった。
「あなたはアンヌ王女?」ダンが尋ねた。
「ええ、そうです。海賊につかまったのです。」アンヌ王女が言った。
「我々が助けに来ました。私は宇宙の治安を守る
「それにしてもあなた方も縛られているようで・・・。あの海賊は私の映像を使って、航行する宇宙船を停止させて襲っているのです。でも引っ掛かったのは馬鹿な船長の貨物船1隻だけでしたが・・・」アンヌ王女の話にダンは動揺しながらも平静を装っていた。
「馬鹿な奴もいる者ですねえ。そんなことも見抜けないなんて。でももう大丈夫です。我々が海賊をだまして潜入したのですから。」
「でもすぐに高速宇宙艇が助けてくれるはずです。海賊を追ってきていましたから・・・。」
「もしかしてその高速宇宙艇って・・・」イリヤはダンを見た。ダンは知らぬふりでそっぽを向いて何やら体を動かしていた。すると「ポトッ」と何かが落ちた。それは小型ナイフだった。
「さあ、つまらない話は後だ。とにかくここを脱出しよう。」ダンはそう言ってそのナイフを使って全員の縄を切った。
「さあ、行くぞ!まずはハッチだ。」ダンはナイフを使って船倉のハッチをこじ開けようとした。しかしなかなか開かない。イリヤがふと上を見上げると上に大きな窓があった。そこから出られるようだった。ジャイカはイリヤを持ち上げて外に出した。その間もダンはハッチに向かって四苦八苦していた。
「ガチャ!」ハッチが開いた。
「開いたぞ! 開いたぞ!」ダンは大騒ぎしたがハッチの外にイリヤがいた。彼女が外から開けたのであった。
「さあ! 逃げるわよ!」イリヤが言うとジャイカとアンヌ王女が続いた。ダンはその後をとぼとぼとついて行った。彼はまだ名残惜し気にナイフとハッチを何度も見ていた。
ダンたちは音を立てないように歩いてスターカイザーに移った。キャビンは静まり返っていた。
「よし! 誰もいない! スターカイザーを分離して逃げるぞ!」ダンがそう言うと、コックピットのドアが開いて海賊が3人、レーザー銃を構えて出て来た。
「逃げられると思うな! ここで貴様らを始末してやる!」
ダンたちが絶体絶命の窮地に陥っていた。だがその時、キッチンのドアが開いてハッシュがワゴンを押して出て来た。
「できました。特製のクリームパイです!」そのワゴンにはクリームパイがいっぱい積まれていた。
「今だ!」ダンはクリームパイをつかんで海賊たちに投げつけた。それは海賊たちの顔にヒットした。イリヤもジャイカも投げつけた。クリーム漬けになった海賊はその場にへなへなと倒れた。
「見たか! 俺はクリームパイ投げで優勝したこともあるのだ!」ダンはアンヌ王女の前できざなポーズを決めた。
事件は解決した。海賊は高速宇宙艇の隊員に引き渡した。アンヌ王女もそれに乗って帰って行った。
「ふふふ。スターカイザーと
それ行け! スターカイザー号 広之新 @hironosin
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