水晶と名もなき勇者

シカンタザ(AI使用)

水晶と名もなき勇者

前書き

【一話完結】なんでもいいから毎日投稿を目指すショートショート

第58話「皿の中で自在に転がる透明な玉」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860102765585/episodes/16816927861335623953


を5千字の短編にまとめたものです。


皿の中で自在に転がる透明な玉。その球の表面に、俺とユーノの顔が映っている。まるで鏡を見ているかのようだ。これが水晶魔法か……。これは面白いかもしれない。試しに俺は、魔力を込めてみた。

すると水晶は、ゆっくりと回転を始めた。そして徐々に速度を増していく。この感じ……、まるで自転車だな。俺はさらに力を入れてみる。

すると水晶もまた加速した。なるほど、どうやらこれで操作しているらしい。俺は水晶を回しながら、ユーノへと顔を向けた。

すると彼女は、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた。俺は彼女の期待に応えるべく、水晶を回転させ続ける。

やがて俺たちの周囲では、風が巻き起こり始めた。これはちょっとヤバイかも? そう思った瞬間、ユーノは両手で顔を覆った。

次の瞬間、周囲の木々が激しく揺れ始める。それはどんどん大きくなっていき、ついには暴風と呼べるほどのものになった。

だが水晶は、依然として回り続けている。さすがにこれ以上はまずいと思い、俺は水晶を止めようとした。しかし――。

水晶はピタリと止まってしまったのだ。あれっ? なんでだろうと思っていると、ユーノが恐る恐る手を退けて言った。

「すごいです! こんな大きな竜巻は初めて見ました!」

どうやら大興奮のご様子だ。そんな彼女を見てると、こっちまで楽しくなってきてしまう。

「それじゃあ次は、これを飛ばしてみようかな」

そう言って水晶に魔力を込めたのだが、何も起きなかった。おかしいなぁと思ってると、ユーノが首を傾げながら訊ねてきた。

「もしかして、水晶魔法って難しいですか?」

「んー、どうなんだろ? 俺にはよくわからないけど……」

とりあえずやってみるか。俺はもう一度、水晶に魔力を込めた。すると今度は、ゆっくりと浮かび上がっていく。おおっ! なかなかいい感じじゃないか。これならいけそうだぞ。

そのまま上昇させてみると、少しだけフラつきながらも真っ直ぐに飛び始めた。

「あっ! 飛んだ!やったぁ~!」

ユーノが満面の笑みを浮かべて喜ぶ。どうやら上手くいったみたいだ。良かったよ、本当に……。

その後、何度か練習してみたのだが、なぜか水晶を飛ばすことはできなかった。やはり水晶魔法の才能がないのか、あるいは別の理由があるのか……。いずれにせよ、水晶魔法の習得は難しいようだ。

暗くならないうちに俺たちは宿に戻ることにした。ちなみに帰り道の途中にある屋台で買った串焼き肉は、とても美味しかった。

部屋に戻るとすぐに、俺はベッドの上に横になった。

「ふぅ……疲れたな」

「おつかれさまです」

ユーノが優しく微笑んでくれる。

「今日はいろいろあって大変だったからな。ユーノこそ大丈夫か? ずっと歩き回ってたし、足とか痛くないか?」

「はい、平気ですよ。ありがとうございます」

「そっか。でも無理だけはするなよ」

「はい。タクトさんも体調には十分注意してくださいね」

「ああ、わかってるよ。それじゃあお休み、ユーノ」

「お休みなさいませ」

俺は水晶をまじまじと見る。この水晶があれば、いつでもどこでも通信できるんだよな。これを使えば、離れた場所にいる仲間たちとも連絡を取り合えるはずだ。

俺は早速、水晶を使ってみることにする。まずはサーシャに呼びかけてみることにした。

「サーシャ、聞こえるか?」

念じるように話しかける。すると――。

「え、何?タクトが話しかけてるの?どうやって?」

サーシャの声が返ってきた。よし、ちゃんと繋がったようだ。俺は安堵の息をつく。

「今水晶から話しかけているんだ」

「水晶って……。水晶魔法が使えるの?」

「そうだ。それでサーシャに相談したいことがあるんだけど、聞いてもらえるかな?」

「うん、いいわよ。何でも話してちょうだい」

「実はユーノのことなんだけど……」

俺はユーノのことを詳しく説明した。彼女は精霊使いという特殊なジョブを持っており、その能力のせいで周囲から疎まれていたこと。そのため故郷を離れて、この世界にやってきたこと。そして彼女は俺に恩を感じていて、自分のことは気にしないで欲しいと言っていることを、包み隠さず伝えた。

「なるほどねぇ。そういうことだったわけね……」

「どう思う? やっぱりユーノは、ここに居るべきじゃないと思うかい?」

「そうね……。正直に言うと、私にも判断が難しいところよ。だって彼女の気持ちを聞いてないわけだし……。でも、私はユーノがここにいることが、一番幸せなんじゃないかなって気がするわ」

「俺もそう思いたい。だけど本人が望まない以上、無理強いはできないだろう? だからユーノに決めて欲しいと思ってる。彼女は自分で考えて結論を出すべきだ。その決断を尊重してあげたいと思っている」

「そうよね……。わかったわ。私がユーノに会って話をしてみる。彼女が望むなら、私たちは喜んで協力するつもりよ。もちろんタクトが嫌だというなら別だけど」

「全然嫌じゃないよ。じゃあ待ってるそれじゃ」

「ばいばい」

サーシャとの連絡を止めた。夕飯を食べに宿の食堂へ入った。ユーノと一緒に食事を取る。

「そういえばユーノは、どんな料理が好きなんだ?」

「わたしですか? うーんと、特に好き嫌いはないですね」

「そうなのか? それじゃあ、これからいろんな国の郷土料理を出してもらうことにしようか」

「いいですね」

「うん」

夜が明けて町の広場にサーシャと合流した。

「ユーノ、どう? ずっとこの世界にいたい?」

サーシャが話を切り出す。

「はい。みなさんのお役に立てるのであれば、ぜひお願いします」

「そう、よかったわ」

「でも、本当にいいんですか? サーシャさんたちにとって、わたしが居る場所は良くないんじゃ?」

「それは違うわ。あなたが私たちの傍に居てくれるのが、一番嬉しいのよ」

「そうなのですか? でも、どうして……」

「それはね、ユーノのことが大好きだからよ。愛しているからよ。あなたのためなら、私たちは全力を尽くすわ」

「あ、あの、ありがとうございます……」

ユーノの顔が真っ赤になっている。

「タクトもいいかしら?」

「ああ、いいぞ。それにユーノがこの世界に残りたいというなら、俺たちは喜んで受け入れるつもりだ。ただ、ユーノがどう思っているのかを知りたかっただけだよ」

「タクトさん、ありがとうございます。本当に優しい方なんですね」

「そんな大したものじゃないよ。そろそろ行こうか」

「はい」

すると突然大男の集団が現れてあっという間にユーノをさらっていってしまった。

「ユーノ!」

俺の声もむなしく彼女は視界から消えた。

「どうしよう……」

「水晶ならユーノがどこにいるかわかるかもしれない」

俺は水晶に念を込めた。するとユーノの姿が映し出された。

「いた! あいつらは……」

ユーノを連れ去った男たちは、以前ギルドで絡んできたチンピラ冒険者たちだった。彼らはユーノをどこかの建物の中へと連れ込んでいく。

「助けに行くぞ!」

「うん!」

俺とサーシャは急いで建物へと向かう。しかし、扉の前には屈強な男が三人立っていた。

「おい、お前たち! そこで何をしている?」

「ちょっと中に入りたいんだが、どいてくれないか?」

「ダメに決まっているだろう。さっさと立ち去れ」

「そこを何とか頼むよ」

「しつこいやつだな。邪魔をするなら力づくでも追い返すぞ」

「わかったよ」

仕方がない。強行突破するか……。俺は腰に差していた剣を抜き放つ。すると相手も武器を構えた。

「サーシャ、下がっていて」

「わかったわ」

「覚悟しろ!」

相手が襲い掛かってきた。俺は相手の攻撃をかわす。そしてすれ違いざまに一撃を与えた。

「ぐはぁ!」

一人目をノックアウトして、すぐに次の相手を斬り伏せる。

「くそ、やるしかないか……」

二人がかりで俺に挑んできた。

「遅いんだよ!」

二人の攻撃を軽々と避けると、同時にカウンター攻撃を叩き込む。

「ぐふぅ……!」

二人目も気絶した。そして最後の一人に向き直ると、すでに降参していた。

「ま、参りました。どうか命だけはお許しください」

「見逃してくれるかい?」

「も、もちろんですとも」

俺たちは建物へ入った。

「こっちよ」

サーシャが手招きをしている。ユーノが縛られて床に転がされていた。

「ユーノ、無事か!?」

「タクトさん! 来てくれたんですね」

「他の奴らはどこに行った?」

「それが、急にいなくなってしまいまして……」

サーシャがユーノのそばにいた男に尋ねる。

「あなたたちは、ユーノを誘拐して何の目的でこんなことをしているの? お金?」

「いえ、そういうわけではございません」

「じゃあ、いったいどういうことなのかしら?」

「実は、我々が仕えている主が、勇者様と聖女様に会いたがっております」

「私たちに?」

「はい」

「それで、その人の名前は?」

「申し訳ありません。私は存じ上げておりませぬ」

「じゃあ、なぜ俺たちのことを?」

「噂を聞いております」

「どんな?」

「魔王を倒し世界を救い続ける救世主だと」

「そんな大げさなものじゃないけど、一応勇者はやってるな」

「私も同じよ」

「それでしたら、ぜひお会いしたいとのことでございます」

「私たちが断ると言ったら?」

「それは困ります。主が悲しみます」

「そう……」

サーシャが考え込んでいる。

「ユーノ、どうする? 会うのは危険だと思うんだけど……」

「わたしは大丈夫ですよ」

「ユーノがいいなら、俺は構わないよ」

「わかりました。お受けします」

「ありがとうございます。それでは、ついてきてください……」

俺たちは案内されて、大きな屋敷へとたどり着いた。そこには白髪の老人が待っていた。

「おお、よくぞおいでくだされた」

「初めまして、ユーノと言います」

「タクトと申します」

「サーシャよ」

「これはご丁寧にどうも。私がこの国の主でございます」

「あの、どうして私たちに会いたかったんですか?」

「それはですね、勇者様の聖剣を譲っていただきたいのです」

「聖剣をですか?」

「えぇ、勇者様のお力で世界をお守りください」

「うーん……。この剣はそう簡単に渡せないよ」

「ならば、交換条件というのはいかがでしょうか?」

「何をくれるんだ?」

「はい。なんでも差し出しましょう」

「例えば?」

「私の命とか?」

「悪いけど、俺には必要ないものだな」

「そうでしょうなぁ。私にも価値があるとは思えません」

「何を言う。そもそもどうやって命を俺にくれると」

「こういうことです」

すると突然、目の前の主は血を吹き出して倒れた。

「なんだ!?」

「きゃああ!」

「サーシャ、ユーノを連れて逃げろ!」

「わかったわ!」

「逃がすか」

部屋の奥から現れたのは、先ほどまで話していた主の姿だった。

「なっ……なんなんだよ……。その姿は……」

主の顔は、まるで骸骨のように痩せ細っていた。

「さぁ、剣をよこせ!」

「くそ!」

俺は咄嵯に聖剣で切りつける。しかし、相手はビクともしない。逆に俺の方が弾き飛ばされた。

「ぐわぁ!」

「ふん、所詮はこの程度か……」

「くそぉ……」

俺は立ち上がる。

「もう諦めたらどうだ? お前たちに勝ち目はない」

「ふざけるな!」

俺はもう一度切りかかる。

「無駄だというのに」

俺の攻撃はまたしても弾かれる。

「ぐぅ……!」

「タクトさん! 今助けます」

ユーノが聖杖を構えて呪文を唱える。

「聖なる光よ、邪悪を払う力となり、我を守り給え……」

「小賢しい真似を……」

主が手を上げると、ユーノの魔法がかき消される。

「そんな……」

「さっきも言っただろう。私を倒すことなどできやしないと」

「くそ……」

俺は再び立ち上がって攻撃を試みる。

「しつこい奴め……」

またも防がれてしまう。

「ぐぅ……」

「タクトさん! 下がってください」

ユーノが代わりに前に出る。

「ふむ、なかなかの魔力を持っているようだな」

「あなたはいったい何者です?」

「私は死人使いだ」

「死者を操る魔法使い!?」

「そうだ。そして我が主のために世界を滅ぼすのだ」

「なぜ世界を滅ぼそうとするんですか?」

「この世にあるものはすべて、いずれ滅びる運命なのだ。それが遅いか早いかというだけの違いだよ」

「そんなことありません!」

「ほう、勇者様は随分と甘い考えをお持ちのようで……」

「私は絶対に負けません!」

「その言葉が本当かどうか見せてもらおう」

主が指を鳴らす。すると、奥の扉が開きそこから大量のゾンビが現れた。

「なっ……なんて数……」

「はははは! どうした? 勇者様の力を見せてみろ」

「く……」

俺たちは必死で抵抗した。しかし抵抗むなしくゾンビの数の力に屈し、倒れてしまった。

――GAME OVER――

俺たちの旅はここで終わった。

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