第58話「皿の中で自在に転がる透明な玉」
皿の中で自在に転がる透明な玉。その球の表面に、俺とユーノの顔が映っている。まるで鏡を見ているかのようだ。これが水晶魔法か……。これは面白いかもしれない。試しに俺は、魔力を込めてみた。
すると水晶は、ゆっくりと回転を始めた。そして徐々に速度を増していく。この感じ……、まるで自転車だな。俺はさらに力を入れてみる。
すると水晶もまた加速した。なるほど、どうやらこれで操作しているらしい。俺は水晶を回しながら、ユーノへと顔を向けた。
すると彼女は、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた。俺は彼女の期待に応えるべく、水晶を回転させ続ける。
やがて俺たちの周囲では、風が巻き起こり始めた。これはちょっとヤバイかも? そう思った瞬間、ユーノは両手で顔を覆った。
次の瞬間、周囲の木々が激しく揺れ始める。それはどんどん大きくなっていき、ついには暴風と呼べるほどのものになった。
だが水晶は、依然として回り続けている。さすがにこれ以上はまずいと思い、俺は水晶を止めようとした。しかし――。
水晶はピタリと止まってしまったのだ。あれっ? なんでだろうと思っていると、ユーノが恐る恐る手を退けて言った。
「すごいです! こんな大きな竜巻は初めて見ました!」
どうやら大興奮のご様子だ。そんな彼女を見てると、こっちまで楽しくなってきてしまう。
「それじゃあ次は、これを飛ばしてみようかな」
そう言って水晶に魔力を込めたのだが、何も起きなかった。おかしいなぁと思ってると、ユーノが首を傾げながら訊ねてきた。
「もしかして、水晶魔法って難しいですか?」
「んー、どうなんだろ? 俺にはよくわからないけど……」
とりあえずやってみるか。俺はもう一度、水晶に魔力を込めた。すると今度は、ゆっくりと浮かび上がっていく。おおっ! なかなかいい感じじゃないか。これならいけそうだぞ。
そのまま上昇させてみると、少しだけフラつきながらも真っ直ぐに飛び始めた。
「あっ! 飛んだ!やったぁ~!」
ユーノが満面の笑みを浮かべて喜ぶ。どうやら上手くいったみたいだ。良かったよ、本当に……。
その後、何度か練習してみたのだが、なぜか水晶を飛ばすことはできなかった。やはり水晶魔法の才能がないのか、あるいは別の理由があるのか……。いずれにせよ、水晶魔法の習得は難しいようだ。
でもまあ別に構わない。水晶なんてなくても困らないし、そもそも欲しいとも思わないからな。ちなみに水晶の売却価格は金貨三百枚だった。
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