忌桃

ぱぱぱぱぱぱぱぽぱぱぽぱぱにぱぱぱぱぱぱ

花か果(かかか)

 桃は永遠を示していた。


 だが、私の耳元に添えられたのは…


 『さようなら』


 したがって、私に永遠はなかったのだ。


 桃果、ああ桃果よ。


 答えておくれ。なぜ私の手からするりと落ちてしまったのだい。


 まだ実をつける季節じゃなかったのに在ってしまったからかい?


 桃花ではなく、果だったから?


 それとも私の掌では腐ってしまうからかい?


 なんて。永遠を約束されなかった忌むべき私に答えるものなどないのだ。


 桃果はその体では珍しい名を示していた。


 その桃を表した体を分かち合うように私たちは愛し合うことを欲したのに…




 私はもう枯れてもいい老人であった。


 しかし、桃果は私に春を告げ、淫れ咲いた薄らぎ紅白色に染まる桃の木の元でそっと禁断の果実を齧らせたではないか。


 桃の木の下で私に渡した桃を、たわわになったその燃える実を、いまさら腐らせてたまるか。


 思い出すだけでぞくりと自分すら知らない私を詳にさせてゆく。

 出逢ってから私は変わった。君がここの高校の新入生だと知り、混沌がよりかき混ぜられ、攪拌し、形を作り出し、見方が狂って目の前が極楽に変わった。

 



 

    「先生、先生」と頬を真っ赤に垂れ、慕ってくれたあの子。

 

         私の冷え切った枝のような体をその引き締まった果肉で包んでくれた。

 


    教室の端で授業中の私に舐めらせる視線。



           指先を濡らす甘美な蜜。

 


 ああ、君を言葉で尽くせようか!



 だのに…

 あの子はこの高校という私にとっての永遠を離れ、大学に逝くのだ。

 現代のそんな成り行きのようなもので私に別れを告げてしまうのならば、いっそのこと一緒に根の国へ帰り、贋作ではない本当の桃としてやりなおしたかった。

 私のものであって欲しいのだ。

 今までこんな気持ちにはならなかった。

 これを、この気持ちを常にしたい…

 あの子は私の桃だ!


 だがもう季節は一巡し、もう私に毎日はない。

 

 そうだ。

 彼女はもうこの学校にはいない。

 不意に冷静になって老人は気がついた。

 とっくに燃え尽きていた。

 私が根拠のない死への渇望であの子を腐らせ、台無しにしてしまう。そして、私はそもそもが火遊びの要領で戯れであったのだと。ゆえに私が必要以上に火を焚きつけ、傷をつけていたと。

 私にとってあの子は自分の一方的な愛と欲求を満たすためだけの都合の良い宝物だったのだと。

 玉座だけの形のない極楽はいらない。

 君のいない美しいだけの庭はいらない。

 

 かかか…


 老人は不気味な笑い声をあげて、満足した後、あの子と出逢った始まりの桃の木で首を吊って死んだ。

 まるで禊をしようとするが、水がなく格好だけ見窄らしく虚しい終わりをする何にもなれない者だった。



 春と梅雨の合間な季節になって、ちょうどその忌々しい木の枝から何かが生えてきた。



        花か果?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

忌桃 ぱぱぱぱぱぱぱぽぱぱぽぱぱにぱぱぱぱぱぱ @indicator_no0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ