KAC20224 お笑い・コメディは何も悪くない

Syu.n.

彼がなりたかったもの

「ドンゴ受ける~(笑 やっぱ最高!!」

「そこでそう持って行くか(草」

「キレあるわ!絶妙のツッコミ!」

「その笑いのセンス、分けて欲しいくらい・・」


ライブ配信に来てくれたリスナーが、コメント欄で囃し立てている。

盛り上げてくれている。喜んでくれている。

ありがたい事だ。・・それは、本当にそう思う。


だけどふとした時に、俺はこうも思ってしまう。


「お前がなりたかったのは、お笑い芸人だったのか?」と。


「ドンゴ」と言うのは、SNS配信における名前。まぁ、ネット上のあだ名みたいなものだ。・・・いや、この場合、本当にあだ名だな。


俺の本当のネット上の名前は「Do Gone」。「ドゥーゴーン」と読む。

そう。俺は将来、歌手、アーティストになりたくてSNS配信を始めたはずだ。


SNS配信を始めた頃は、純粋に歌ばかり歌っていた。

だけど、リスナーはほとんど来なかった。

仕事がある日でもできる限り夜に1回。仕事の無い日は、朝、昼、夜と3回はできる限り配信した。

一人でも多くの人に自分の歌を聞いてもらう。ファンになって、認めてもらうために。

だが現実はやはり甘くない。

「はじめまして」と挨拶があれば良い方。

「いい歌ですね」「頑張ってください」と言ったコメントは本当に稀。

コメント欄が空白のまま、ただ俺の歌声だけが配信部屋に流れることがほとんどだった。


それでも半月は頑張って、何回か来てくれたリスナーの一人と雑談をしそうな場面があった。

「ファンとのやりとりは大事。これも歌手への一歩だ」と考え、でも堅くなり過ぎないよう、なるべく普段通り雑談した。まぁ、ちょっとした笑いも交え。


その時、思いもよらぬ反応があった。


「Do Goneさんって、こんなに面白い方だったんですね!歌も好きですがますますファンになりました!もっと応援します!」


ありがたいコメントだ。俺は素直に「ありがとうございます!応援よろしくお願いします!!」感謝の言葉を告げた。


その時から徐々に、でも確実に、コメントしてくれる人が増えてきた。


「良かったです!そう言えば、この曲ってDo Goneさんの好きな歌詞があるんですよね?」


「そうですね。○○って歌詞なんですけど・・」


歌が好きだから、歌のこと、曲のことを聞かれれば饒舌になる。

それまで聞かれなかったことを聞かれて、歌う時とは別のテンションで話せば、またそこから別の話題になっても盛り上がる。そんなことは普通にあるだろう?


だけどその「別の話題を話すDo Gone」が、リスナーからの受け、反応がずっと良かった。ある時、リスナーの一人が言った。


「笑いすぎて腹痛いw ドンゴサイコ――!」


ドンゴ?


「Do Goneって毎回打つのが大変なんで、「ドンゴ」。ダメですかね?」

「ドンゴ、いいですね!」

「親しみが持てるし、私も良いと思います!」


せっかく、よく来てくれるようになったリスナーの方たちも言ってくれていることだし、「・・まぁ、愛称みたいな感じで「ドンゴ」でもいいっすよ」と。確かに承諾した。


・・・その頃から、何となく違和感を持つようになっていた。


ライブ配信を始めて、(さぁ、今日は何から歌おうかな?)と思っていると、


「こんにちは!そう言えばドンゴさん、先日やっていた△△の話の続きって、いつやる予定ですか!?」


え?「まぁ聞きたいなら、今からやってもいいですけど?」


「是非お願いします!」

「あ、俺も気になってた!ラッキー」

「これは面白い回になるの確定!!」


主観的にもおそらく客観的にも、来てくれるリスナーさんは協力的な方ばかりなので、歌うのを邪魔するとか聴かないと言ったことは決して無い。

・・・でも明らかに、歌った後の反応より雑談、トークしているときの反応が良い。ノッているのだ。


(・・まぁ、喜んで応援してくれているんだし、それぞれの楽しみ方を強制してはダメだよな。)


そう考えて配信を続けている内に、フォロワー、応援してくれる人が100人を超え、200,300,500人、・・


配信を始めて約ひと月で、あっという間に1000人を超えていた・・


歌ばかり歌っていた最初の半月では2,30人程度だったのに、同じ半月間で30倍以上になったのだ・・


そして俺は、いつしかリスナーの多く(ほぼ全てがこの半月間のフォロワー)から、こういった風に認識されていた。

「トークが面白くて歌も歌える、マルチな芸人」と。



・・・・・人気が出て、応援してくれている人が増えることは本当に嬉しい。


だけど、気合を入れて歌うぞ!と言う時に、


「あ、今回は珍しく歌枠なんですね」


こういったコメントをもらうと、悪気はないのだろうと思っても、複雑な気持ちになる。


リアルの友人に何気なくを装って「歌っている時と駄弁っている時の俺、どっちがいい感じ?」と聞いてみた。


「あ~。・・・歌ってる時のおまえもかっけーけど、ちょっとズレてるお前の考え方?表現?を、新鮮でいい感じって思う人も結構いるんじゃね?」


・・・・・


俺が歌手、「アーティストになりたい」という野望に変わりはない。

だけど、「今の俺」に向いていて、リスナー、ファンの支持が集まりそうなのは、どうやら「お笑い、コメディアン」路線らしい・・・


「自分の理想」を優先するか、「周囲が望む自分」で折り合いをつけるか


それとも、「将来の俺」は、それ以外の答えを見出せるのだろうか・・・

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KAC20224 お笑い・コメディは何も悪くない Syu.n. @bunb3

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