ブラック・ジョーク

DITinoue(上楽竜文)

ブラック・ジョーク

 俺は何者かって?怪しいものじゃない。いかにも暗い服をしているが。この服は前に友達からブラック・ジャックみたいだって笑われたけどな。すまん、話がそれた。俺は黒井毅くろいこわし。お笑い芸人だ。芸名は『闇潰し君』という。

俺がやっている漫才はとても名前に合っている。それは「ブラック・ジョーク」だ。


ブラック・ジョークっていうのは、倫理的に避けられているジョークだ。タブーについての風刺やネガティブ・グロテスクで不気味なコメディだ。

実は、俺がこれを採用した理由は何となく。他の芸人が全く手を付けていない分野を開拓してみようと思い、初めてみるとメガヒットした。持ちネタは

「闇潰し君は闇を潰さず広げてくんでね」

「ペットの話」

「危険生物との戦い」

「お葬式」

「第二次世界大戦」

「日本の政治」

などだ。


 今日は年末のお笑い番組に出演することになっている。年始にはブラック・ジョークは合わないということで、年末にしかできない。


「はいどうも~、闇潰しです~!!」


「あのさ、話したいことあるんだけど。うちの錦鯉が可愛かったんだけど」

へ~

「でさ、大きくなったら水槽に入りきらなくなってさ。バシャバシャバシャバシャうるせぇんだよ。俺は神経質なんだ」

意外と言われるだろうな。

「だから、バシャバシャの回数をな、い~ち、に~い、さ~んって数えるんだ」

アホかと前の席のおばちゃんが言う。

「で、バシャバシャが20回越したらどうなるか知ってるか??」

観客はだいたい予想着いただろう。

「アホかって言ったおばちゃんと一緒に嚙み砕いていく」

ヤバ~という声。


 

「で、腹ごしらえしたところで。どっかで戦争してるって知ってるか?」

知ってるという声がある。

「そこでな、俺は思い出すわけよ。関ヶ原の大激戦をな!!」

ハハハハハハハハハ

「で、それから何百年後か、ドイツに泳いで旅行したんだよ」

え~と驚きの声が響く。


「サメが俺のけつに食いついてきやがった」

うわ~!!

「で、俺はサメの頭から食いついてやった。それからどうしたか?」

食べた~という正解が。でも、それだけならつまらない。

「サメの真似してのぉ、シャーって言いながら丸のみした」

ハハハハハハハ

そんなことできるやつどこにいるのだろうか。


3分ほどマイクを握った後、時間が近づいたので簡単にくくった。

「どうも、それじゃあこれからネタを話していこうか。さっきのは最近の出来事だからネタじゃねぇよな?」

まだあるの~という声とアンコールの声が混じって耳に入る。

「てなわけで今日はおしまいだ!!あばよ!!!!」

お笑いを終わらせ、控室へ戻った。


 季節は海流のように流れ、8月。ブラック・ジャックは海水浴だ。

「気持ちぃ~!!」

前のネタで泳いだことがあったが、本当に泳ぎが得意なのだ。

良い天気で波が落ち着いているから、マネージャーと一緒に泳ぐことにした。

バシャバシャバシャ

俺の泳ぎの速さにマネージャーはついてこられない。仕方なく、マネージャーが乗った浮き輪を俺が引っ張ることになった。


バシャバシャ

気づけば・・・・・陸がメチャクチャ遠かったんだ!!

「嘘だろ」

「泡アワシテマス」


さらに、何となんと、奴が現れたのだ。

「デーデンデーデンデデデデデデデデデ~!!」

「ジョ~~~~~~~~~~~~~~~~ズ!!!!!!!!!!!!!!!!」

ジョーズ=サメです。つまりは・・・・・サメでた~!!!!!!!


バシャバシャバシャバシャ

マネージャーが大慌てでバタ足をする。サメはそれを見てマネージャーに食らいついた。

「ダメだ!」

サメを蹴る。サメはコチラに向きを変えた。

「ヤバい!!」

やられる瞬間、マネージャーが飛び込んできた。

「マネージャー!」

そのまま、マネージャーは消えていった。


 失意の中、しばらく仕事を休むことにした。

「はぁっ」

ネタ通りなら、俺がサメを食ってたのに。

だが、俺にも復活の日が出てきた。政治の漫才を再開させることにして、R-1に出る。良い結果は出せなかったが、久しぶりの漫才でみんなが笑ってくれた。それが嬉しくてたまらなかった。


で、ある日。国の偉い人から電話がかかってきた。漫才では討論で相手をフルボッコにするところだったのだが・・・・・。

「この国の在り方について考えているのは良いだろう。ただ、君はブラックな漫才で自分の意見を述べることが良いと思っているのか?」

そう言われると、ついつい返事に困る。別にそんなこと考えてるわけじゃない。

「そして、難民へ何も寄付しない国を批判しているが、君はどうだい。何か支援してるのか?」

「い、いいえ・・・・・」

さんざん言われた後、しっかりと敗北した。


 ある日のバラエティに出た日のこと。こんなネタを作った。

「俺ね、泥棒の仲間になった」

エ~!!

「それから、みんなである豪邸から金を盗むことになったんだ」

どこ~??

「その家は・・・・・俺の家だった」

ハハハハハハハハハ

ウケてるウケてる。

「でさ、愛する女房がいてさ。俺らは変装して金を持ち出すんだ。そしたら女房さ、

『あなた!!あなたでてきて!!助けて!』って叫んでた。で、出てきたらさ。フライパンで殴られたんだ」

ハハハハハハハハハ


その後、ある夜のこと。まだ蒸し暑くて窓を開けて寝ていたら。

「おめぇ、俺らの仲間にならないか」

闇潰し君のことは知られていた。

「いや・・・・・・・」

「じゃあ、金を出せ」

「え」

「金を出せ!!」

窓を開けてたから強盗が入ってきた。


そのままみんな乗り込んできてさんざん金をとられた。俺はもう知るかという思いで家を脱出した。女房を置いてきて。

「あなた、どこにいるの!!助けて!!」

ヤバいと思って乗り込んだ時には遅かった。抵抗したせいで刺されてしまった。


 それからというものの、ロケ地で巨大なコイに食べられそうになるし、日本兵の霊に呪われたとか言われることもあった。お葬式で死んだと思ってた祖母が起きて、叱ってきたり、間違えて棺に入れられたこともあった。

そのような出来事は、同じような漫才をして半年以内に起こっていた。つまり、ブラック・ジョークが現実に起こっていたのだ。


 最悪の出来事は起こった。

気分をリフレッシュできるところを探したところ南の島を見つけた。そこではサメにも出会わずに済んだ。

そして、オンラインで漫才をした後の出来事であった。どっかの戦車が乗り込んできたのである。兵隊がどんどん撃ってくる。防空壕での生活が続いた。仲良くなった人はどんどん死んでゆく。俺のせいだろうか。いいや、俺のせいだ。どうせ、大戦の時の霊がブラック・ジョーカーを呪ってくるのだろう。


意を決して俺は外に出た。銃を持って戦った。何人かの相手を殺した。だが――抵抗虚しく銃が要所に当たったのである。血を流して倒れた黒井毅。助けに来るものは誰もいなかった。島は陥落した。俺は幸いにも相手の国の医者の手当てで助かった。

だが――大切なものはすべて失った。家族も、友達も、客も、祖国も、自由も、身体も。意味のない余生を過ごさねばならなくなるのか。

闇潰し君はブラック・ジョークをやめた。何もできなくなった。彼が立ち直ったのは兵隊の呪いが溶けて何十年もたった後である。


 ――島にはある石碑が残っている。何十年か前の芸人が彫ったらしい。

「闇を使った笑はとるな。破るとあなたは全てを失う」

それを見た1人の男はプッと吹き出した。

「いやいや、そんなの迷信だろう。言って全てを失うわけがない。実際失ってないもんな」

その男の元に、闇の手は近づいていた――

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